プラスチックリサイクルで未来創造 Lita Lab|株式会社パンテック

再生原料の調達を競争力を高めるための戦略に

作成者: 株式会社パンテック|2025.08.19

メーカーやブランドオーナーがサステナビリティの取り組みの一環として、環境に配慮した責任ある調達を進める中で、再生プラスチック原料の利用を推進する企業が増えています。また再生プラスチック原料やバイオプラスチック原料など、環境配慮型プラスチックの使用を義務化する動きが、日本を含む世界中で議論されています。
今回は再生プラスチック原料の導入を、規制対応という枠を超えて、企業の戦略的な取り組みとして捉える視点についてご紹介いたします。

 

【 目 次 】
1. 再生プラスチック原料の需要の高まり
2. 「再生材はバージン材よりも高い」は本当か?
3.  高価な再生材にはそれに見合う価値がある
4. 「経営戦略」としての再生プラスチック原料の調達

 

1. 再生プラスチック原料の需要の高まり

地球温暖化や海洋プラスチック汚染などの環境問題の深刻化や限りある天然資源の使用抑制に対する社会的な要請が高まる中で、企業が調達する原料のが問われる時代になっています。かつては「安定調達できる(調達しやすい)」「品質が良い(歩留率が高い)」といった理由から、石油由来のバージン原料が当然の選択肢とされていました。

それがリニアエコノミー(線型経済)からサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が進む中で、今や原材料の調達においても環境への配慮が求められる時代となりました。加えて、EUでは改正される「ELV規則」(廃自動車規則)において、現時点(2025年8月現在)では適応時期は未定ながら、新車に使用するプラスチック部品に最低15~20%の環境配慮型プラスチック(PCR:ポストコンシューマーリサイクル、PIR:ポストインダストリアルリサイクル、CR:ケミカルリサイクル、バイオプラスチックなど、定義については未確定)を使用することが義務化される方向です。また、包装材分野でも、PPWR(包装・包装廃棄物規則)が2026年8月から順次適用され、2030年、2040年以降で段階的に再生プラスチックの使用が必須になっていくことが検討されています。

 こうした動きは欧州だけではなく日本にもあり、2026年施行予定の「資源有効利用促進法」の改正案には「再生材の利用義務化」が盛り込まれており、再生材の利用義務を課す製品を特定し、当該製品の製造事業者等に対し、再生材の利用に関する計画の提出および定期報告を義務付けることになる見込みです。

 社会が再生プラスチック原料使用の義務化に向かう中、メーカーやブランドオーナーにとっては、自社のニーズに合った再生プラスチック原料を調達したものづくりが行えるかどうかが企業のリスクマネジメントにも大きく関与するようになります。そもそも再生プラスチック原料は量的な制約があるため、需要の高まりに伴い、調達競争が激しくなる可能性も十分に考えられます。そのため、再生プラスチック原料の調達は、企業の競争力を高めるための「経営戦略」の一つとして捉え、先行的に取り組めるかどうかが重要です。

 

2.「再生材はバージン材よりも高い」は本当か?

バージン原料から再生プラスチック原料への切り替えを検討する企業が増える中で、メーカー・ブランドオーナーの調達・製造現場ではこんな声もよく耳にします。

「再生材って環境には良いけど、バージン材よりも高いんでしょ?」
「バージン材が価格の上限。それを超えたら社内稟議が通らない」
「製品単価に跳ね返るから、再生材の採用には躊躇してしまう」

こうした再生プラスチック原料のコストを気にする声は、後を絶ちません。実際、プラスチック製品の製造業では、バージン価格を基準に原料を調達しているケースが多く、基準価格であるバージン価格を超える原料の採用にはハードルがあります。

再生プラスチック原料は、不要なプラスチック資源を回収し、減容や洗浄といった一次加工をした後に再生原料加工がなされ、必要に応じてコンパウンドなどが行われた上で、再生原料ユーザーに供給されます。中には店頭回収や解体、人の手による選別・異物除去作業などのプロセスが組み込まれるケースもあり、サプライチェーンが長く、工程も多いことがお分かりいただけるかと思います。これが「再生材はバージン材よりも高い」という印象を与える主な要因となっています。

ただ、パンテックを含む全国のリサイクル事業者は、輸送効率や生産効率の向上を常に意識して、「バージン材と同等水準、あるいはそれ以下の価格で供給可能な再生材」の開発・提案に力を注いできました。こうした静脈産業の企業努力もあり、経済性が保たれた再生材のサプライチェーンは存在します。事実、物流資材や建材、園芸などの業界では、サステナビリティが重要視される以前より、コスト削減策の一環として再生材が採用されてきた経緯があります。

価格が安いと言うと、今度は「安かろう悪かろう」と思われる方も多いのではないでしょうか。確かに再生材にも品質が良いものと悪いものがありますが、生産ロスなどのプレコンシューマー材料由来、ポストコンシューマー材料由来でも高度なブレンド技術を駆使した再生材は、比較的品質が安定しており、なかには価格競争力のある再生材もあります。とは言え、バージン材に比べて再生材は物性のブレがどうしても生じてしまいます。そのため、再生材の使いこなしには技術力も必要ですが、再生材の配合比率を低めに設定するなどの調整をすることで、最終製品の品質への影響を抑えることも可能です。

 

3. 高価な再生材にはそれに見合う価値がある

一方で、実際の市場ではバージン材価格を上回る価格で流通している再生材も数多く存在しています。このような素材は果たして“高すぎる”のでしょうか?

企業の調達担当者の方々のお声として、そうした再生材には、価格を超える「機能的・社会的な価値」があり、むしろそれが素材を選ぶ理由となっているとも聞きます。

例えば、ISCC PLUS認証を取得しているケミカルリサイクル原料やオーシャンバウンドプラスチック(OBP)由来のマテリアルリサイクル原料のほか、食品接触対応や医療や精密機械分野における環境負荷物質に関する厳しい品質要件を満たす再生材などは、供給量の希少性や品質管理費が価格に反映されているため、一般的にバージン相場の数倍の価格で流通しています。

こうした価格の高い素材はサプライチェーンが明確であり、使用することによりメーカー・ブランドオーナーとしての企業姿勢をナラティブに示すことができ、消費者・取引先・投資家などのステークホルダー(利害関係者)との信頼形成にもつなげることができます。つまり、サステナビリティのみならず、ブランディングとしての効果が期待できるため、バージン材より高い再生材であったとしても採用するに値すると考える企業は少なくありません。

このような再生材は、単なる「コストを抑えるための素材」ではなく、製品そのものに意味を持たせ、企業姿勢を示すための素材です。採用することで、製品の環境価値が明示され、消費者・取引先・投資家などとの信頼形成にもつながります。再生材が“高くても選ばれる”というのは、「安いから使う」時代から、「戦略として使う」時代への移行を象徴しているのです。

 

 

4. 「経営戦略」としての再生プラスチック原料の調達

再生材を「コスト削減のために使う」のも「サステナビリティ活動のために使う」のも、正しい選択です。その選択は決して否定されるものではありません。しかし、ここで私たちが強調をしたいのは、再生材にはそれ以上の可能性があるということです。

今、求められているのは、調達を単なるコスト管理の対象や規制への対策とするのではなく、価値創造の手段へと再定義することではないでしょうか。

調達原料の見直しは、製品企画・設計、研究開発、製造などサプライチェーン全体に関わり、なおかつ企業ブランドにまで波及する重大なテーマです。再生材をスペックインするためには、多くの人が関わることになるため、多くのリソースが費やされます。だからこそ、単に「安いから」あるいは「環境に良いから」という二者択一ではなく、企業として再生材を活用することの意味や目的を改めて問い直してみる価値があるように思います。サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行に向けて社会のルールが書き換えられる中で、メーカー・ブランドオーナーが再生材を使用することが社会の要請となりつつある今、再生材の調達を経営の文脈で捉え直すことができれば、競争力やブランド価値を高めるための経営戦略にもなり得るのです。

価格競争力のある再生材を活用するにせよ、企業競争力を高めるために再生材を活用するにせよ、再生材の調達は一筋縄ではいきません。再生材の需要が高まり、調達競争が激しくなってからでは、後手に回ってしまうことになりかねず、先手先手で動くことが重要です。再生材の調達にあたっては、実務における課題や社内障壁を一つひとつ解決していくことが必要であり、外部パートナーをいかに活用できるかが成否を分けます。

再生材の調達は、一企業や一国の利益を超えて、地球という共通の基盤を守るための一歩でもあるのではないでしょうか。 世界の産業が持続可能な方向へ舵を切りつつある今、この選択は国境を越えて未来を形づくる力を持っています。 今日の私たちの小さな決断が、百年先の地球環境と人類の豊かさにつながることを願いながら、共に歩んでいければと思います。