今回は、株式会社パンテックでマーケティング部を統括する大野が、資源循環型のブランドづくりを進める株式会社TRIFE DESIGNでディレクター/コンセプターを担う五藤様と意見を交わしました。対談を通じて、企業がどのように循環型のものづくりへ移行していくべきか、その課題と可能性を探ります。
大野:パンテックでは2021年にサーキュラーエコノミー推進部を立ち上げ、不要なプラスチックを回収・再生原料化して、製品に生まれ変わらせて、排出企業にお戻しする事業を展開しています。近年、これまで廃棄物として処理してきた素材を製品に変えて自社内で循環させるスキーム、いわゆるクローズドループを構築したいというお問い合わせを多くいただきます。
プラスチックの資源循環の文脈では、自社から排出される資源が有価物としてリサイクラーなどに売却・再生原料化され、他社で使用されるオープンループが一般的です。それは今後も変わらないでしょうが、一方で、自社で排出した素材を自社で再活用していくクローズドループのニーズが高まっているように思います。
五藤さんのところにもクローズドループに関するご相談は多く寄せられているんじゃないでしょうか。
五藤:そうですね。廃棄されている素材であったり、デッドストックの商品であったりを活用したいというご相談は多くいただきます。クローズドループに関心がある企業は確実に増えているように思います。
こうした潮流が生まれているのは、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が進んでいることの表れだと評価できますが、単発的な案件が多いということを懸念しています。自社廃材を廃棄するのではなく活用したいという思いはあっても、継続性や事業性までを意識されている企業はまだまだ少ないように思います。
もちろん単発であっても意義のある取り組みではありますが、サーキュラーエコノミーへの移行を目指すのであれば、単発で終わらせるのではなく、クローズドループを事業の中に組み込み、継続的に運用できる体制を構築していくことが重要だと思います。
大野:確かにいかに事業の中にクローズドループを組み込んでいけるかという視点は重要ですよね。サーキュラーエコノミーは概念としてはかなり広まってきてはいるもののまだまだ模索段階であり、業界を問わず社会を広く見回してみても、クローズドループの事例は限られているかと思います。ですので、現時点ではPoC(実証実験)やトライアルの意味合いが強い単発的な取り組みが多いのも致し方ないようにも感じますが、単発的な一過性の取り組みで終わらせるのではなく、中長期先を見越してステップバイステップで取り組みをアップデートしていくことが重要かと思います。
五藤:でも実際問題として、素材として再生原料化ができないものも多いですよね。
大野:本当に多いです。パンテックではこれまで多くのプラスチックのマテリアルリサイクルに携わってきており、一般的にリサイクル困難品と言われる多層フィルムやアルミ蒸着などの複合素材についても実績があり、対応力には自信を持っています。ただ、いまだにマテリアルリサイクルに対応できない素材も多いのが実情です。日本で排出されるプラスチック廃棄物のうち3/4は再資源化されていない要因のひとつには、製品設計時にそもそもリサイクルされることが想定されていないということもあるのではないでしょうか。
日本では2022年にいわゆる「プラスチック資源循環法」が施行されましたが、同時にプラスチック製品の製造事業者等が設計段階から環境配慮することを促すための指針として、「プラスチック使用製品設計指針」が施行されています。ですが、強制力もないので、製造現場ではそこまで意識されていないように思います。
五藤:環境配慮設計を意味する「サーキュラーデザイン」や「DfE(Design for Environment)」、「エコデザイン」などの概念は、国やアカデミック、一部の先進的な企業からの発信されているものの、欧米に比べると日本ではまだまだ市民権を得ているとは言い難い状況かと思います。
大野:サーキュラーデザインはまだまだオルタナティブな扱いですが、これがメインストリームになると、資源循環のあり方にも大きな変化が生まれそうです。
五藤:サーキュラーデザインの考え方が浸透すれば、プロダクトとしての機能性や意匠性と同じように環境性や循環性への配慮もされ、ものづくりをする際の素材の選定や製品設計なども変わってくると思います。そうすると、複合素材や金属がインサートされた素材などに代表されるリサイクルが困難な素材を使ったものづくりも自ずと減っていき、資源循環の可能性ももっと広がるはずです。とは言え、サーキュラーデザインがものづくりの現場に実装されるのは、もう少し先になりそうですね。
大野:そうですね。モノマテリアル化や分解・分別の容易化などは「プラスチック使用製品設計指針」でも示されていますが、製品設計はそう簡単に変えられるものではありませんし、移行には多くの時間とお金がかかります。
五藤:いまや大量生産、大量消費、大量廃棄が許される時代ですし、メーカーや小売業者には拡大生産者責任が求められるようになっており、製品の生産以降の廃棄やリサイクル段階にまで責任領域が広がってきています。そう考えると、時間とお金がかかっても、メーカーや小売業者としては自分たちの責任領域として取り組んでいかないといけない時代になっているようにも感じます。
大野:サーキュラーデザインが資源循環を進めていく上で重要な要素であることは間違いないですが、持続可能な資源循環の実現のためには、サーキュラーデザインだけでは足りないように思います。
五藤:確かに環境に配慮した製品設計は動脈産業側の視点が強く、静脈産業側の視点があまり盛り込まれていないように感じます。使用後の製品をいかに回収して、再資源化し、新たな製品に生まれ変わらせていくのかというところまでを想定するのであれば、静脈産業側の視点を盛り込んでいく必要がありますよね。
大野:おっしゃる通りですね。サーキュラーエコノミーの実現には動静脈連携が重要だということはよく言われますが、製品設計だけではなく、製品使用後の回収から再製品化に至るプロセスについてもデザインするのであれば、動脈産業と静脈産業が連携し、循環型のスキームを共創すること以外に方法はないように感じます。
資源循環は、動脈産業と静脈産業で相互に資源を受け渡しながら、ものづくりを続けることと言えるかと思いますが、これを行うためには、動脈産業視点でのサーキュラーデザインだけでは足りなくて、回収、再生原料化などの静脈のプロセスを見越した上での、製品設計や資源循環フローの構築が必要です。それがないと、いざ資源循環をしていくという時に、どこかで無理が生じて、サプライチェーンが途絶えてしまう結果になるように思います。
五藤:そもそもどのような素材や条件であればリサイクルができるのかということをはじめ、使用済み製品の回収方法や効率的な運搬方法、そしてどこでどのようにリサイクルするのかといったようなことなども資源循環を行なっていくためには欠かせない視点です。それに実際にスキーム運用していくには、事前にコンプライアンスチェックなども必要になってきますが、かなり専門的な知識や経験が必要なので、これらを動脈産業だけで行なっていくことは難しいですよね。
大野:資源循環そのものをデザインしていくためには、動脈側のロジックも静脈側のロジックも精緻に把握している必要がありますが、そんな人は日本中探しても、ほとんどいないのではないでしょうか。だからこそ、持続可能な資源循環の実現には、最終製品の製造に軸足を置く動脈産業と回収から再生原料化に専門性を有する静脈産業がパートナーシップを組むことが欠かせないように思います。
五藤:デザイナーという肩書きで仕事をしている人は多いと思うんですけど、グラフィックデザイナーしかり、空間デザイナーしかり、特定の専門領域を限定しているデザイナーが多いと思います。仮にこうした専門領域に特化したデザインを「狭義のデザイン」とした時に、資源循環のデザインは「広義のデザイン」と言えるかと思います。
「広義のデザイン」にはデザイン的なアプローチを経営などの領域に広げていこうとする「デザイン経営」なども含まれるかと思いますが、資源循環のデザインはそれと一線を画す領域です。デザイン経営を得意とするクリエイターやコンサルタント、アカデミック人材などであっても、資源循環のデザインは難しいのではないかと思います。市場を俯瞰・分析して戦略は作れたとしても、最適なパートナーを選定し、実際に機能するスキームを構築するのは至難の業ですよね。
資源循環をデザインすることなんて、デザイン教育の中でも教える人もいないし、学ぶ学生もいない。MBAやMFAを取っているからってできることでもない。本当に実務を通じて身につけていくしかないと思うんですよね。
大野:僕も転職してこの業界に来ましたが、樹脂やエリア、形状などによっても最適解は変わってきますし、プロセスが細分化されており商流も複雑なので、キャッチアップには苦労しました。いまもまだまだ勉強中ではありますが、サーキュラーエコノミーの実現に向けた試行錯誤が世界中で展開されていますので、日々新しい情報を吸収しないといけなくて本当に大変です(笑)。資源循環のデザインは静脈側だけでもできませんし、やはり動脈産業と静脈産業の強固なパートナーシップなしには、実現しないと強く感じます。
五藤:パンテックと一緒に取り組んでいる「ReTA BASE」*は、クローズドループではないものの、動静脈連携の事例と言えるのではないでしょうか。不要なプラスチックの回収から再生原料化をパンテックが担い、生地の開発を共同で行い、最終製品の製造から流通をTRIFE DESIGNが担っていますが、パンテックが静脈サイドをディレクションし、TRIFE DESIGNが動脈サイドをディレクションしたからこそ生まれた事例だと思います。
「ReTA BASE」*|株式会社TRIFE DESIGNと株式会社パンテックとの共創によるプラスチック資源循環促進型アップサイクルブランド / プロジェクト。バッグを中心とするライフスタイルグッズを展開している。不要なプラスチックの回収から再生原料化、製品化・流通・販売に至るまでの一連のサプライチェーンを日本国内で構築していることを特徴とする。
大野:「ReTA BASE」は2021年の発売開始以降、プロダクトラインアップが強化され、ありがたいことに着実にお取り扱いいただく店舗が増えています。流行り廃りが多いアパレル業界の中で、「ReTA BASE」がこうして継続的に事業展開できている理由について、五藤さんはどのようにお考えですか?
五藤:まず、パンテックさんとTRIFE DESIGNが対等な関係を築けていることがあると感じます。上下の関係ではなく、横の関係で仕事ができるということは大きいと思います。あとは価値観が合致しているという点も重要な要素でしょうね。
大野:業界こそ違いますが、もともと資源循環型のものづくりをしていきたいという思いは共通していましたもんね。確か「ReTA BASE」の企画の立ち上げからブランドローンチまで1年もかかっていなかったように思いますが、価値観が合致していたからこそ、議論が噛み合い、トントン拍子でプロジェクトを進められたのではないかと感じます。
五藤さんには実際にリサイクルの現場に足を運んでいただき、回収から再生原料化に至る静脈側の工程についての理解を深めてもらいましたし、僕も五藤さんとプロジェクトを進める中で、どのように最終製品を生み出していくかのかという動脈側のロジックについて多くのことを学ばせていただきました。こうした相互理解を深めるプロセスは本当に大事だと思います。
五藤:異業種が連携する際には、相互理解を深めるための時間が必要だと思います。TRIFE DESIGNでは異業種との連携を積極的に行っていますが、業界にとっての当たり前が、異業種の人にとっては当たり前じゃないことは多いですし、相互理解が深まらないまま進めても、お互いに意図や思惑が正しく伝わらず、コミュニケーションコストが必要以上にかかってしまうように思います。その上で、関係性が対等ではないとなかなかうまくいかないですよね。
大野:動脈産業と静脈産業で言えば、ビジネス上、動脈側が委託して、静脈が受託するという構図なので、静脈側の方が立場が弱い感じはありますね。再生プラスチック原料の需要の高まりや拡大生産者責任が問われるにつれて、多少、そうした構図や関係性も変わりつつある感じもしますが、対等になるにはまだもう少し時間がかかるでしょうね。
五藤:あと、プロジェクトの成果の捉え方も事前に明確にしておくことが大事だと思います。
大野:経済性をどのように捉えるかという部分ですね。「ReTA BASE」では商品の販売を通じて売上や利益が得られていますので、それもプロジェクトの成果だと言えるかと思います。ただ、弊社もTRIFE DESIGNさんもそうした目に見える経済的なメリット以外のところにもこの取り組みの価値を感じているわけですが、そこの認識がずれていると、確かに頓挫するリスクになりそうです。
五藤:事業として展開する以上、売り上げや利益を出すというのは重要ですが、こうしたプロジェクトは先行投資としての側面もあるじゃないですか。取り組みを通じて、ナレッジがたまったり、ネットワークが広がったり、ブランディングに繋がったりするので、中長期的な視点でそうしたいわゆる無形資産を形成することも成果と捉えることが重要かと思います。経済的なメリットって単純なマネタイズだけではないと思うんですけど、大野さんがおっしゃる通り、ここの認識がずれていると、連携はうまくいかないように思います。
大野:そういう意味では、大企業よりも中小企業の方が連携しやすいのかもしれません。大企業は良くも悪くも職能によって組織が細分化されていますが、資源循環を実現していくためには、外部との連携以前に、社内の部門間での連携が非常に重要になるように思います。プロジェクトの規模にもよるとは思いますが、環境やサステナブル担当をはじめ、企画や研究開発、デザイン、製造、品質管理にPRなども資源循環に関わりますし、他部門を巻き込んでいくことも大企業がこうしたプロジェクトに取り組むにあたってのハードルになりそうですね。
五藤:確かに中小企業の方が小回りが効きやすいというのはあるかもしれません。「ReTA BASE」の場合がまさにそうですもんね。プロジェクトの責任者や決裁権者など権限を持つ方が参画されて、プロジェクトの方向性や狙いについての合意ができているのであれば、大企業であってもスピード感を持って進められるように思います。
大野:国内におけるプラスチックの資源循環の重要性は色々なところで指摘されていますし、企業も対応を進めている最中ではありますが、実際問題として日本のマテリアルリサイクル率が伸びているわけでもないですし、いまだに再生資源の7割が海外に輸出されているというのが日本の現在地です。やはり、サーキュラーエコノミーへ移行していくためには、社会システムから見直していくことが必要だと思います。
五藤:今回の話にあがった環境に配慮した商品設計というサーキュラーデザインを超えて、動静脈連携によって資源循環をデザインしていくようなことが当たり前になっていかないといけませんね。それには「ReTA BASE」のような小さな事例を積み上げていくことももちろん大切ではありますが、インパクトがあるのは、やはりEUのように強制力のあるルールメイキングをすることかもしれません。
大野:日本ではこれまでの経緯からしても、そうしたアプローチはとらないように思いますが、EUの規則であっても、日本企業も影響を受けますからね。ELV規則案やPPWRがその代表例かと思います。これらによって日本企業のグリーンシフトが加速すると期待していますし、実際に多くの企業が動いていて、ありがたいことに弊社にも多くのお問い合わせをいただいています。
いまは大企業が中心だとは思うのですが、大企業の動向はサプライヤーにも影響を及ぼしますし、結果として、日本のものづくりのエコシステムが循環型に移行していくことにもつながっていくと思います。
五藤:資源循環のデザインは一筋縄ではいきませんが、企業としてコンプライアンスの観点からも拡大生産者責任を果たす意味でも、取り組まなくてはいけない時代になっていますからね。「ReTA BASE」に限らず、これからも色々な業界、分野でモデルケースを共創していきたいですね。
大野:こちらこそこれからもよろしくお願いします。本日はありがとうございました。