ベビー用品業界初の「哺乳器回収リサイクル」。前例なき挑戦を支えたパートナーシップと現場の熱意
ピジョン株式会社
開発本部 設計開発部 パッケージデザイングループ マネージャー|阿南 ゆかり 様
サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進グループ|田野辺 峻 様

事例の概要
ベビー用品業界を牽引するピジョン株式会社は、株式会社赤ちゃん本舗と共同で、2022年に「哺乳器回収リサイクル」の取り組みを開始しました。関東10店舗のアカチャンホンポからスタートした本取り組みは、翌2023年には全国124店舗へと拡大し、2026年1月時点では130店舗にまで広がっています。「思い出の詰まった哺乳器を捨てずに資源として生かせる」という点が評価され、お客様の共感の輪は着実に広がっています。
業界でも前例のない自社哺乳器の回収スキーム構築にあたっては、さまざまな課題がありました。店頭回収に伴う法規制への対応や分別工程の確立といったハードルをどのように乗り越えてきたのでしょうか。パートナーであるパンテックとどのように連携し、取り組みを推進してきたのか、そして今後の循環社会の実現に向けた展望について、本社および分別の最前線である筑波事業所のご担当者様にお話を伺いました。
※ 本記事の掲載内容は全て取材当日時点の情報となります。
- メーカー単独では回収拠点を持てず、使用済み哺乳器は各家庭で「ごみ」として廃棄されるしかなかった。
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店頭回収における廃棄物処理法などの法的解釈や、適法な回収スキーム設計の知見・ノウハウがなかった。
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哺乳器特有の複数素材(ガラス、数種類のプラスチック、シリコーンゴム等)の分別基準がなかった。
- 店頭回収のノウハウを持つパンテックが参画したことで、構想段階にあった取り組みが本格的に稼働した。
- 関連法規の課題をクリアし、適法かつトレーサビリティが担保された回収スキームを構築することができた。
- 分別基準が定められ、継続的な資源循環スキームを運用することができた。
1. お取り組みにあたっての課題
― 使用済み哺乳器の店頭回収というスキームは、オペレーションの構築やコスト面で大きな負荷もあったと推察いたします。それでも本プロジェクトを実行すると決断された理由や背景をお教えください。
阿南氏 もともとこのプロジェクトは、私たちパッケージデザイングループ内での「新しい取り組みとして、いまの自分たちに何ができるか」という議論からスタートしました。それが2021年頃のことです。
当時、会社全体としても環境対応やサステナビリティ推進への機運が高まっており、社員の中からも「授乳期を卒業して使わなくなった哺乳器を、そのままごみとして捨ててしまうのは忍びない」という声が多数上がっていました。
そこで、廃棄されている哺乳器を回収し、資源としてリサイクルする仕組みをつくれないかと考えたのが発端です。
田野辺氏 コスト面に関しては、回収やリサイクルにかかる費用を考慮すると、開始当初からすぐに採算が合うビジネスモデルではないことは理解していました。
しかし、「まずは環境のためにチャレンジしてみよう」という会社からの強力な後押しがあったことや、短期的なコスト以上に、お客様のピジョンブランドに対するロイヤリティの向上や、次世代の赤ちゃんのために企業の社会的責任を果たすという意義を重く見た上での決断でした。
― ベビー用品業界全体として、「自社哺乳器の回収」は前例がない領域だと考えます。立ち上げにあたり、どのような構造的課題や難しさがあると感じていらっしゃいましたか。
阿南氏 最も大きな壁となったのは、法律面、とくに廃棄物処理法(正式名称:廃棄物の処理及び清掃に関する法律)などのコンプライアンスに関わる部分でした。
使用済みの哺乳器を店頭で回収する際、それが法的にどのように解釈されるのか、要件を正確に整理する必要がありました。また、メーカーである私たち単独ではお客様との接点となる回収拠点が持てないため、小売事業者様にご協力を仰がなければスキーム自体が成り立ちません。前例がない中で、適法性の確認やトレーサビリティの確保を手探りで進めなければならない点が、最初のハードルだったと感じています。
田野辺氏 さらに、回収後にもベビー用品特有の課題があります。
哺乳器は赤ちゃんの口に直接触れる製品であるため、極めて高い衛生・安全基準が求められます。本来は回収した哺乳器を再び哺乳器に戻す「水平リサイクル(ボトルtoボトル)」ができれば一番いいのですが、そもそも法的に難しいというのが実情です。
阿南氏 加えて、一つの製品にガラスや複数種類のプラスチックなど、多様な素材が使われているため、リサイクルに向けてこれらをどう正確に分別するのか。そして、水平リサイクルが難しい中で、回収した素材をどのようにリサイクルして、最終的に何に生まれ変わらせるのかという道筋を見つけることも難しい点でした。

2. パンテックをリサイクルパートナーに選んだ理由
― そのような課題を抱える中で、弊社をリサイクルパートナーとして選んでいただいた理由を教えてください。最初の接点はどのようなものだったのでしょうか。
田野辺氏 最初のきっかけは、パンテックさんから弊社のサステナビリティ推進部にお電話をいただいたことでした。
ちょうどそのタイミングで、社内ではパッケージデザイングループを中心に哺乳器回収の企画が進行中だったため、「プラスチックリサイクルの豊富なノウハウを持つ企業からアプローチがあった」と社内で共有し、すぐに具体的にご相談をさせていただきました。
阿南氏 パンテックさんをパートナーに決めた最大の理由は、私たちが直面していた「店頭回収に伴う法規制」に対する深い知見をお持ちだったことです。
単にプラスチックを引き取ってリサイクルするだけでなく、行政・自治体への確認プロセスや、適法性を担保した回収スキームの構築に向けたコンサルティングを提供していただけたことが決め手になりました。コンプライアンスを徹底しつつ、回収からリサイクルまでのトレーサビリティを確実に追える安心感は非常に大きかったです。
― 株式会社赤ちゃん本舗様と取り組みを開始するにあたり、どのような調整やハードルがありましたか?
阿南氏 メーカーである私たち単独では回収拠点が持てないため、小売事業者様にご協力いただく必要がありました。そこで、環境対応への関心も高い赤ちゃん本舗様にお声がけをさせていただきました。
ご提案にあたり、店頭の貴重なスペースを回収ボックスに割いていただくことや、店舗スタッフの皆様に日々の回収オペレーションという新たな負荷をおかけしてしまう点が最大の懸念でした。
しかし、赤ちゃん本舗様にご相談したところ、「未来の赤ちゃんのために良い環境を残す」という私たちのビジョンに深く共鳴してくださり、単なる「回収場所の提供」に留まらず、同じ目標に向かって志をともにするパートナーとして、力強い共創体制を築くことができました。
一方で、実際の回収スキーム構築については、そもそも回収する哺乳器を、法律上、どのように取り扱うのが適切なのかなど、社内に法律的な知識がなく手探りの状態からのスタートとなりました。そこで大きな助けとなったのがパンテックさんです。
パンテックさんからは、私たちが知識を持っていなかった法律面の課題を解決しながら、確実な回収スキームを構築していくための具体的なアドバイスをいただくことができました。また、コンサルティングに終始することなく、実際にコンプライアンスを徹底しながら、トレーサビリティを担保したリサイクルスキームを運用できるという点も非常に魅力的でした。
赤ちゃん本舗様との強力なタッグと、パンテックさんからの実務的なお力添えに助けられ、プロジェクトの立ち上げから約8か月というスピードで実証実験のスタートまで持っていくことができました。
3. 取り組みの拡大について
― 2022年に関東10店舗から始まったお取り組みが、2023年3月には全国124店舗へと急速に拡大されました。全国展開の構想はいつからあったのでしょうか。
阿南氏 全国展開については、プロジェクトの構想段階から視野に入れていました。しかし、実際のオペレーションの課題や回収量が読めなかったため、まずは関東の10店舗で小さくスタートし、検証を行いながら実証を進める形をとりました。
田野辺氏 開始当初は、お客様への認知がなかなか広がらず、回収ボックスに集まる哺乳器の量も決して多くはありませんでした。しかし、SNSでの継続的な発信や、お客様同士の口コミを通じて「ピジョンの哺乳器がお店でリサイクルできるらしい」という情報が広がり、徐々に回収量が増加していきました。
お客様からは、「思い出の詰まった哺乳器を捨てるのが心苦しかったので、回収して新しい資源にしてもらえるのは本当にうれしい」といった、非常に温かいお声をたくさんいただいています。また社内でも、店頭で回収ボックスがいっぱいになっている様子を見たり、反響を聞いたりすることで、社員のモチベーションや自社への誇りが高まっていると感じます。

4. 分別工程について
― 全国から回収された哺乳器が集まる筑波事業所のご担当者様のSCM本部物流部筑波センター管理グループの星野様、安藤様にお話を伺います。実際に分別作業を進められる中で、最も苦労した点を教えてください。
安藤氏 戻ってくる製品は現行品だけではなく、数年前にリニューアルした過去の製品も含まれます。見た目はほとんど変わりませんが、実は素材が変更されている場合があるため、一つ一つ「本当にこの素材で合っているか」を確認する作業が最も神経を使います。
星野氏 哺乳器のボトルの部分だけでも、ガラスが2種類、プラスチックが3種類(PPSU、PP、T-Ester)と、計5種類に仕分ける必要があります。形状が同じでも素材が異なるケースがあるため、最初はパンテックさんに作成いただいた「確認書(チェックリスト)」を首っ引きで見ながら、素材の定義を一つずつ現場に落とし込んでいきました。

― 現場の体制や、社員の皆様の意識に変化はありましたか。
安藤氏 当初は数名で分担していましたが、現在は専任の担当者が対応しています。出荷業務の合間を縫って作業を完結させる必要がありましたが、効率化を進める中でいまではスムーズなフローが確立されています。
何より、いままで「廃棄するしかなかったもの」を自分たちの手で資源に変えられるという実感が、担当者の大きなやりがいになっています。
星野氏 分別の担当者は思い出の詰まった製品を扱うこともあり、環境貢献への実感と相まって、非常に丁寧に作業を進めてくれています。パンテックさんが現場の状況を細かく汲み取って、具体的な分別の基準について的確なアドバイスをくださったおかげで、迷いなく作業に取り組めています。

5. 今後の展望
-再度、本社のお二人に伺います。今後の資源循環の取り組みの発展や、回収した素材の具体的な活用について、どのような展望をお持ちでしょうか。
阿南氏 現在はオープンループリサイクルで他産業の製品原料として使われていますが、私たちの理想はやはり「ボトルtoボトル」の水平リサイクルでクローズドに資源を循環させていくことです。しかし、哺乳器は食品衛生法の基準が非常に厳しく、国内では再生プラスチックを食品に触れる部分に使用するハードルが非常に高いという現実があります。
一方で、お客様からは「哺乳器を卒業したあとも、子どもの成長に寄り添うものに生まれ変わってほしい」というお声を多くいただいています。思い出の詰まった哺乳器が形を変え、再びご家庭に戻っていくようなサイクルをつくり出すことが今の大きな目標です。コストの課題などはありますが、実現に向けて一つずつ壁を乗り越えていければと考えています。
自社製品の回収・リサイクルするにあたり、「いつ、どのような素材で作られたか」という由来を正確に把握できるという点は大きな強みになります。この利点を生かし、将来的には「ピジョンからピジョンへ」というクローズドな資源循環を、より付加価値の高い形で実現したいですね。
田野辺氏 そのためには、プラスチック資源循環促進法などの法改正への対応や新たな成形技術の導入など、専門的な知見が不可欠です。パンテックさんには、これまでのリサイクルパートナーとしての枠を超え、技術や法規制の面でも引き続き多角的なアドバイスをいただきながら、この挑戦を一緒に形にしていければと思っています。



