再生材100%のスツールを3Dプリンタで造形する「循環型モノづくり」実装への道程
合同会社 新工芸社
代表|三田地 博史 様

事例の概要
3Dプリンティング技術を軸に「工芸の現代的な再定義を行う」合同会社新工芸舎(以下、新工芸舎)は、再生プラスチック原料の供給を行うパンテックと大型ペレット式3Dプリンターを擁する株式会社井上企画(以下、井上企画)との三社での共創により、再生プラスチック原料を100%使用した椅子の開発に取り組みました。
物性データとコンパウンドによる3Dプリンティングに適した原料の開発、デザインや造形技法のブレイクスルーなどを経て、造形レシピを確立。2026年2月に伊勢丹新宿店での展示・販売会「新工芸店(デパート)」で「WA Stool」として発表されました。
日本国内では事例が少ない再生プラスチック原料100%での大型かつ意匠性の高い3Dプリンタ製の椅子の開発にはどのような課題があり、それをどのように乗り越えてきたのでしょうか。再生プラスチック原料を用いた循環型モノづくりの先行事例として、新工芸舎の代表である三田地さんにお話を伺いました。
※ 本記事の掲載内容は全て取材当日時点の情報となります。
- 家具をはじめとする大型造形物の開発は「いつかやりたい」と構想はあったものの、それに取り組む機会がなかった。
- 環境配慮や社会潮流から再生プラスチック原料の使用を検討していたものの、調達ルートの開拓の難しさや品質や安定供給への不安から、導入ができずにいた。
- 3Dプリンタを用いた家具の造形に対する知見を有する開発パートナーとのつながりもなく、プロダクト開発に踏み出せる環境が整っていなかった。
- パンテックを介して井上企画と出会い、再生プラスチック原料と大型ペレット式3Dプリンターを活用した大型造形物の開発環境が実現。
- 三社の共創により再生プラスチック原料100%使用の椅子「WA stool」を開発・発表。
- 共創パートナーを得たことで、椅子にとどまらず再生材を起点とした「循環型モノづくり」の開発が推進。
1. 出会いが生んだ、前例なき挑戦
― 今回の取り組みのきっかけを教えてください。
三田地氏 最初は再生プラスチック原料を用いて、3Dプリンタでノベルティを作れないかというご相談をパンテックさんからいただいたことが出会いのきっかけです。私たちも再生プラスチック原料を取り扱うのはその時が初めてだったので、いろんな素材を持ってきていただいて、それをプリントしてみたんです。
その試作の中で、私が「大型の3Dプリンターで椅子みたいなものを造形したい」と話していたら、「紹介できる会社さんがいるよ」ということで、今回の造形パートナーである井上企画さんを繋いでいただくことになりました。
パンテックさんにご調整いただき三社の顔合わせをした際に、ブレスト的に色々とお話をさせていただき、再生プラスチック原料の供給力に強みのあるパンテックさん、大型の3Dプリンターを保有し、家具の商品化に知見のある井上企画さん、そして3Dプリンティングの可能性を模索している弊社の3社の強みを生かして「椅子を開発しましょう」という話になり、プロジェクトが動き出しました。

― 大型造形への挑戦は、以前から強く意識されていたんですか?
三田地氏 我々が持っている3Dプリンタは、コンシューマー向けの比較的小さな製品に適したサイズのものがほとんどです。製品ラインアップを見てもらったら分かりますが、これまでは大型の商品を作っていくというよりかは、今ある機材でできることを探求していました。
ペレット式の大型機は導入するにも相当なコストがかかりますし、造形物が大きくなればなるほど、それに比例して材料代も膨らんでいくので、大型造形物はいつかはトライしたいと思いながらも今まで手を出せていなかった領域でした。大型機には小型機ではリーチできないスケール感やプロダクトの可能性もありますので、今回の出会いをきっかけに、おかげさまでようやくチャンスが巡ってきたと感じました
2. 「WA Stool」の設計思想と技術的ブレイクスルー
― 「WA Stool」でこだわったポイントについて聞かせてください。
三田地氏 新工芸舎としては第一号の椅子になるので、やはりアイコニックなデザイン、プロジェクトにしたいという思いが強くあり、個人的にもかなり力が入りました。これまで手がけてきた製品とは違い、大型であるがゆえに試作にかかる樹脂の量もコストも桁違いに大きくなりますので、安易にトライアンドエラーもできません。だからこそ、トライに対する試行錯誤にはかなり頭を使いました。
3Dプリンタによる椅子の造形に関しては、ヨーロッパを中心にすでに先行事例があります。ですが、それらを模倣するのではなく、あえてそれらを横目に見ながら、後発の我々としてどう独自性を出していけるかということを軸に検討を始めました。3Dプリントの椅子は横向きに出力して、それを起こすという方式が主流なんですが、どうにかそこから外れてみたいと考えました。そこで生まれたのが、今回採用した背もたれと座面を斜めにオーバーハングさせながら一気に造形するという方式です。おそらくほとんどやられていない造形方式だったと思います。
また、開発の中で「イマジナリーダブルレイヤーピッチ」という技法を生み出せたというのも、今回の取り組みの大きな収穫でした。普通の積層って同じ場所に樹脂を重ねていくんですが、今回は前後に互い違いに積層させることによって、見かけ上、2倍のレイヤー構造になっているように見えるようにしています。積層の美しさを主眼に置いて突き詰めていたら、自然と湧いてきたアイデアだったんですが、大型のペレット式3Dプリンタでの開発をしたからこそ見つかった技法だと思います。
最終的に「WA Stool」というプロダクト名をつけたんですが、理由としてはトポロジー的に見ると、この椅子は全ての層が「輪(筒)」になっているデザインということもあり、その形状からこの名前を採用しています。
あと、プリント後の手仕上げをしていることも、今回の特徴的なプロセスと言えるかと思います。3Dプリンタでは造形物を固定するベッドと呼ばれる面に樹脂を出力していくのですが、その接地面はどうしても形状が潰れてしまいます。そのため、そのエッジの部分を削って、丸くして、磨き上げるということにもこだわってやっています。
木製の椅子であれば仕上げをしない椅子なんてないので、樹脂椅子もやはりそういう工程を経ることで、初めて商品として成立するだろうと思いまして、そこもチャレンジした点のひとつです。

― デザイン思想として「工芸」は意識されているのでしょうか。
三田地氏 「新工芸舎」という社名を掲げていることもありますし、「工芸」は大いに意識しています。「なぜ『新工芸』なのか?」ということについては、我々が作った雑誌「新工芸 Vol.1」に整理しているので、興味がある方はそちらを読んでいただければと思いますが、工芸は哲学でありOSなので、あらゆるデザインに対して応用可能な考え方だと思っています。
今回の「WA Stool」に関して言えば、「民藝運動」の河井寛次郎の椅子がアイデアソースの一つとなっています。京都市の五条にある河井寛次郎記念館に、丸太を削り出した椅子があるんですが、丸太の削り出しなのですごく重いんです。この椅子に限らず、民藝運動時代の家具は、材を贅沢に使っていて、厚みがあって重いものが多いんですが、それは長く使えるロングライフな製品であることを前提にしているからという背景があります。
対して、樹脂椅子はいかに生産効率を高めて、安く軽量かつ大量に作るかということに重きを置かれてきたように思います。その結果、紫外線による劣化などもあり、数十年と使い続けることを初めから前提としていないライフサイクルの短い製品が多いような気がします。
もちろん、それを否定するわけではありませんが、そういう価値観ではない樹脂椅子に今回はチャレンジしたいと考えました。河井寛次郎の丸太を削り出した椅子のように、100年先にも残りそうな樹脂椅子があっても良いかなと思ったんです。射出成形では作れない樹脂の塊のような椅子を作れるのも、3Dプリンターだからできることなのかなと感じています。
3. 再生プラスチック原料を用いた「循環型モノづくり」
― 再生プラスチック原料にこだわった理由はどこにあったのでしょうか。
三田地氏 これだけの量の樹脂をもしバージン材で使っていたらと考えると、環境負荷が頭をよぎるので心理的に抵抗があるんですよね。それは我々のような作り手だけではなく、商品として使用するユーザーも同じだと思います。再生材100%だからこそ成り立つものだと作りながらしみじみと思うことが多かったです。
もちろん世界的な潮流を意識しているという側面もあります。3Dプリンタ関連のヨーロッパの展示会などでは、バージン原料を使用している事例がほぼ見られなくなってきています。3Dプリンタは2010年台から飛躍的に発展してきた技術ですし、そもそも大量生産を前提としていないのでSDGsとの親和性も高い。そういうこともあり、なるべく樹脂をリサイクルしたり、サステナブルな社会を築いていくということが大前提となっている印象です。環境配慮という文脈では、バイオマス原料もありますが、ヨーロッパではバイオマスよりも圧倒的に再生材が使われていますので、今回、再生プラスチック原料を選ぶのが自然な流れでした。
とは言え、再生プラスチック原料を本格的に扱うのは、我々としても初めての試みでした。環境への配慮や社会潮流から再生材を使うことは決めていた一方で、正直、扱いにくさや強度、安定供給に対する不安はありました。

― 再生プラスチック原料を使って実際に商品開発をしてみて、最も難しかった点はどこでしたか。
三田地氏 普段、使用することが多いPLAやPETGがいかに3Dプリンタ用に調整された原料であるということを痛感しました。今回使用した再生材は3Dプリンタ専用の原料ではないので、我々としても未知の素材でした。想像以上に甘くはなかったというのが正直な感想です。
今回使用した材料に関しては、「反り」をいかに抑えるかという点が最大の課題でした。最初は両面テープだけのベッドで行ったんですが、それでは反りを抑えることが難しかったので、途中からオリジナルのクランプシステムを作って押さえ込む方式にしました。
試作を行う前は、「今回こそはうまくできるはず」といった気概を持って取り組むんですが、毎回、思いもよらない結末を迎える……。それを繰り返しながら、ベッド温度、ノズル温度、室温など、それぞれの条件を細かく詰めていきました。そうしてようやく再現性のあるマスターレシピができて、安定して造形できるようになりました。
我々も普段使用しているPLAのプレコンシューマー材料を自社で粉砕して、再利用しているんですが、それと比べても格段に造形難易度が高かったです。ですが、再生材を使っているうちに多少の物性のブレもここの条件設定を変えれば問題なく造形できそうだという感覚がつまめてきたところもあります。
今回の再生材を用いた造形は困難はありましたが、結果的に再生材100%で造形ができたのは、パンテックさんのご支援があってこそだと思っています。今回の経験は材料を変えた場合にも活かせると思いますので、この知見を蓄積できたことは良い収穫だったと言えるかと思います。
4. 開発パートナーとしてのパンテック
― パンテックに対してはどのような印象をお持ちですか。
三田地氏 最初にお問い合わせをいただいた時はプラスチックの資源循環を専門にしているということで、結構お堅い会社かなとイメージしていたんです。でもウェブサイトを拝見させていただくと、大手企業との取り組みを幅広く展開されていたり、再生材でバッグを作っていたり、ビジュアルも洗練されていて、想像していた業界イメージとは良い意味でギャップがありました。時代に合わせたキャッチアップをされている会社という印象です。
― 開発を進める中でパンテックとのやりとりで印象に残っている点はありますか。
三田地氏 印象的なのは、高い専門性と安定感ですね。原料選定の際には「こんな再生原料はありますか」という相談に対しても、PIR材料やPCR材料、物性違いのものなど複数のバリエーションでご提案いただけて、その提案力には驚かされました。サンプルと合わせて物性データもご提供いただけたので、原料選定の際だけでなく、造形条件の調整もしやすかったです。
試作を進める中では、「いつまでに何キロ必要になった」「追加で何キロ用意して欲しい」といった緊急かつイレギュラーなことが結構あったにもかかわらず、いつも真摯に迅速に対応していただけました。着色やコンパウンドなど、提携工場との協議や調整もお任せしていたのですが、実際には再生材ならではの難しさもあったと思います。また、試作の日程に合わせた納期調整などにも粘り強く、柔軟にご対応いただけたので、本当に助かりました。
再生材の調達から物性データの提供、コンパウンド、納期調整に至るまでワンストップでやっていただけたので、予定していたスケジュール通りに開発をスムーズに進めることができました。そのおかげでなんとか商品化までたどり着けた感があります。我々だけで再生材の供給事業者の開拓から原料開発をすることはリソース的にも厳しいですので、開発パートナーとして「パンテックさんがついていてくれる」という安心感は非常に大きかったですね。
結果的に狙い通りの艶感のある良い色味のスツールができましたし、お客様からも好評をいただけております。
これから主流になってくる再生材を使った開発は、当たり前ですが再生材の安定供給なしには成立しません。量や品質、そしてタイミング。そのどれかひとつが欠けても開発は止まってしまいます。そもそも再生材の調達ルートを確保することは簡単ではない中で、再生材の供給するだけに留まらず、開発に伴走していただける対応力と専門性を有するパンテックさんとの出会いは、我々にとってもラッキーだと感じています。

5. WA stoolの先へ——循環型モノづくりが拓く、次の地平
- 「WA stool」は2026年2月に伊勢丹新宿店で開催された新工芸舎のPOPUP SHOP「新工芸(デパート)」でお披露目となりました。実際にプロダクトとして形になったことへの手応えはいかがでしたか。
三田地氏 伊勢丹新宿店での展示は総じて好評で、苦労もあった分、端的に嬉しいですね。有難いことに受注することもできました。驚いたのは、企業からの引き合いを想定していたところ、「自分の家に置きます」という個人のお客さんが多かったことです。自分の家に3Dプリンタ製の樹脂椅子を置くことは、結構ハードルが高いじゃないですか。それを受け入れてくれたのは本当に嬉しかったです。「モニュメンタルな椅子になると思います」「絶対にサイン入りの作品証明書を付けてください」と言ってくれる方もいたりして、お客様からそういった言葉を直接いただけたのも有り難かったです。これから皆さんにお届けしながら、皆さんのご期待に応えられるようなプロダクトになっていくと良いなと思います。
- 今後、再生原料を活用したものづくりでさらに挑戦してみたいことはありますか。
三田地氏 今回はスツールでしたが、今後は同じ考え方をベースに、ラウンジチェアや2シーターのベンチなどに発展させながらシリーズ展開ができたらと考えています。また、全てを樹脂製にするのではなく、シェル部分を3Dプリンタで造形して、脚の部材を木材や金属にするなどのコンビネーションも検討したいです。そうすると、実用シーンが広がるように思います。
今回の経験を経て、再生材を活用することに対する抵抗感が前よりもなくなってきているということもあり、ラボで発生する樹脂廃材を再利用していくためのアイデアが着々と生まれつつあります。先日はフィラメントを細く引き直して束ねた化学繊維製の箒なんかも作ってみました。
また最近はプリンティング以外の取り組みもしていて、簡易のアルミ型を作って、そこに樹脂廃材を入れて焼成して、タイルを作ってみたりもしています。配合によっても質感や風合いが変わったりするので、色々な配合で試してみています。
- これからの共創においてパンテックに期待することはありますか。
三田地氏 我々は3Dプリント市場を拡大していくことを目標としていますが、お互いがwin-winな形でパートナーとして今後も伴走していただけると心強いです。
3Dプリンタのユーザーはこれからも増えていくと思いますし、個人ユーザーだけでなく、法人の参入も増えていくはずです。それに合わせて、機材の価格も下がっていくるはずですし、それがまた新規プレイヤーの増加を促していく気がします。実際にヨーロッパではすでに日本よりも格段に安価なペレット式の3Dプリンタが登場していて、それらの機材で作った造形作品を販売する作家がたくさんいます。その波は近い将来、確実に日本に来るはずです。
そのようにしてこの業界が成長すればするほど、3Dプリンタ用途の再生プラスチック原料のニーズも高まっていくのではないでしょうか。とはいえ、次のプレイヤーが出てくるかどうかは、我々を含む、今のプレイヤー次第だとも思いますので、我々の取り組みがその一つのきっかけになると嬉しいですね。
今回ようやくパンテックさんや井上企画さんとの取り組みが形になりましたが、これは三社のコラボレーションの幕開けだと思っています。3Dプリンタに適した再生材の開発余地はまだありそうですし、今回使用した材料以外の樹脂の種類の活用可能性も探っていきたいです。一緒に素材開発と製品開発を並行して進めていきつつ、3Dプリンタ市場とプラスチックの再生市場を同時に切り拓いていけたらと思います。



