コープCSネット(生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合)様

FILM to FILMのクローズドループをいち早く実現したサーキュラーエコノミーのロールモデル

コープCSネット(生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合)様 

事業活動から排出される軟質フィルムを副資材にアップサイクル。
生活協同組合としてFILM to FILMのクローズドループをいち早く実現したサーキュラーエコノミー(循環経済)のロールモデル。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)が指摘され、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が迫られる中、生活協同組合としていち早くFILM to FILMを実現した生活協同組合連合会コープ中国四国事業連合(以下、コープCSネット)。なぜ迅速にサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行に舵を切ることができたのか。事業支援本部 物流企画課 担当課長の倉田氏に伺いました。

● コープCSネットについて

 コープCSネットは、中国四国の地域生協(鳥取県生協、生協しまね、おかやまコープ、生協ひろしま、コープやまぐち、とくしま生協、コープかがわ、コープえひめ、こうち生協)が出資した事業連帯法人組織。各地域生協の宅配事業や店舗事業をはじめ、「組合員の心豊かなくらしと願いを実現する」ための事業を展開。2013年にはコープCSネットのリサイクル施設「コープCSネットエコセンター」(以下、エコセンター)を開設。エコセンターはコープCSネットの特例子会社「株式会社ハートコープおのみち」が障害をお持ちの方を雇用して、運営を行っている。設立:2005年10月。本部:広島市東区。

コープ1

Press 1 パンテックとの取引状況

 

Q1:パンテックとの出会いのきっかけを教えて下さい。

A1:きっかけはプラスチックをリサイクルしてくれる事業者のコンペティションでした。

コープCSネットでは2013年に尾道流通団地内にエコセンターを開設しました。エコセンターは、中国5会員生協57事業所で発生するリサイクル可能なアイテムを集約した上で、圧縮加工を行い、資源リサイクル業者に販売する事業を展開しています。

エコセンターの開設当初、プラスチックのリサイクルに関しては、コープCSネットとしてこれまで取引のあったリサイクル業者と契約していましたが、事業が安定してきたタイミングでより良い条件で取引できる事業者をコンペティション形式で募りました。その時に落札されたのがパンテックで、そこから取引がスタートしました。

Q2:現在のパンテックとの取引状況をお聞かせ下さい。

A220197月から取引がスタートしました。内袋のフィルムベールを中心に引き取っていただいております。

エコセンターで取り扱っているプラスチック類としては、内袋をはじめ、発泡スチロールや卵パック、PPバンドなどがあります。そのうち、パンテックには内袋を圧縮梱包したベールをメインにリサイクルをお願いしています。

内袋は組合員様にドライ商品や冷蔵、冷凍商品をお届けする際に使用するポリエチレン製の袋です。配送先を区別することが主な用途ですので、厚さも8~9μと薄く、リユースには向きません。組合員様からはもっと厚くて破れにくい袋に変えて欲しいというご要望をいただいたりもしますが、ご要望にお応えするとコストが増加するだけでなく、バージン原料の使用量も増加しますので、環境負荷の観点から時代に逆行することにもなりかねません。もちろんワンウェイユースのプラスチック製の内袋を使い続けることも、脱プラの流れに即した対応ではないとの指摘もあるでしょう。他社ではプラスチック素材から紙素材や生分解性プラスチック、バイオマスプラスチックへの移行を進めている事例もあるかとは思いますが、こと内袋に限って言えば、価格はもちろん、加工効率や輸送効率の良さ、供給の安定性などを考慮した場合、現状のものに代わる素材はないと考えております。

その上で、コープCSネットでは内袋を使い捨てるのではなく、リサイクルすることを通じて、企業の社会的責任を果たそうと取り組みを進めています。近年の社会潮流の中ではプラスチックそのものを悪と捉える向きもあるように感じますが、問題なのはプラスチックそのものではなく、後始末の仕方です。後始末を適切に行い、リサイクルすることができれば、環境負荷を低減することができますし、それも持続可能性のある選択肢の一つだと考えております。

Q3:リサイクルスキームをお聞かせ下さい。

A3:エコセンターでベール化したフィルムを再生原料化し、サニタリーバッグに変えて組合員様向けに使用する国内完結のクローズドループを構築しています。

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コープCSネットで回収した使用済みの内袋をエコセンターにて圧縮梱包機にかけてベール化し、それをパンテックに有価で買い取っていただいております。パンテックではそのフィルムベールをもとに再生原料化加工を行い、それを原料の一部として使用したサニタリーバッグを国内で製造。サニタリーバッグはコープCSネットが買い取り、組合員様に商品をお届けする際に使用しております。

つまり、コープCSネットの事業活動から排出される使用済みフィルムを回収して、もう一度サニタリーバッグというフィルム製品に生まれ変わらせることができており、いわゆるFILM to FILMのクローズドループ*を構築しています。事業活動を通じて排出されるプラスチック廃棄物のクローズドループが構築できているのは、数ある生協の中でも、コープCSネットだけだと思います。

※クローズドループ
クローズドループはレベルマテリアルリサイクルとも言われ、同一製品の原料に再生利用するリサイクル手法のことをいう。一般的に資源循環の観点から見る優先度としては、サーマルリサイクルやケミカルリサイクルよりも上位に位置付けられているマテリアルリサイクルの中でも最も優先度の高いリサイクル手法として評価されている。

Press 2 サーキュラーエコノミーへの移行

Q4:循環型製品としてサニタリーバッグにした理由をお聞かせください。

A4:作り易く、使い易いからです。

フィルム製品をリサイクルする場合、回収したものの品質が最終製品の品質を大きく左右しますので、使用済みの内袋を回収する際には、極力、ゴミや異物の混入を防ぐよう現場対応を行っておりますが、それでもゴミや異物をゼロにすることはできません。また、多少なりとも汚れが付着することは否めず、再生原料化した時に、バージンと同等の透明性を確保することは困難であり、色味はどうしても黒っぽくなってしまいます。

内袋からもう一度、内袋を製造できることが一番の理想ではありますが、色味の問題はさることながら、ゴミや異物の混入リスクのある使用済みフィルム由来の再生原料から薄いフィルムを製造するのは、技術的な難易度も高いと聞きます。

そこで再生原料化時の色味の変化を逆手にとって、サニタリーバッグにしました。サニタリーバッグであれば、黒色であることに商品価値がありますし、多少のゴミや異物があっても、品質的に問題なく使用することができます。要するに、使用済みフィルム由来の循環型商品として、サニタリーバッグは作り易く、コープCSネットの事業特性上、一定のニーズがあるため、使い易いわけです。

使用済みの内袋を回収してサニタリーバッグに変えているということは、コープCSネットとして対外的に広報しているわけではありませんが、このサニタリーバッグについて組合員様からクレームを頂戴したことはありませんし、組合員様からも品質面ではご納得いただけているものだと認識しております。

Q5:クローズドループの構築はいつから検討を始められたのでしょうか。

A52017年の国門利剣を機にプラスチック廃棄物の行き場が失われることを危惧して、検討をはじめました。

自社廃材のクローズドループについては、SDGsESGの観点からかねてより理想としては持っていましたが、検討を始めたのは2017年の国門利剣がきっかけでした。それまでは正直なところ、そこまでの切迫感はありませんでしたが、世界で最もプラスチック廃棄物を受け入れていた中国が輸入を規制し、それを契機にアジア各国でも同様の規制が行われるようになったことで状況が一変。生協内でも、それまで海外向けに有価売却できていたプラスチック廃棄物を引き取ってもらえなくなるなどの影響が出始め、自分たちが排出するプラスチック廃棄物の行き場が失われることに対して危機感が募りました。

コープCSネットでは組合員様にご協力をいただきながら、使用済みプラスチックの回収を行っております。そうして回収しているにも関わらず、リサイクルができなくなるという事態は、環境負荷の観点からもなんとしてでも避ける必要がありました。何がなんでもリサイクルを続けていく。それがコープCSネットとしての社会的責任であり、最低限の役割だとの考えから、急ピッチでクローズドループの構築の検討を進めました。

当初、何社かの取引事業者に相談を持ちかけたのですが、なかなか具体的に検討が進まなかったのですが、パンテックにお声がけさせていただいたことで、一気にクローズドループの構築が具体化しました。

Q6:コープCSネット様のクローズドループの特徴を教えてください。

A6:障がいをお持ちの方にリサイクルスキームの一端を担っていただいていることです。

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エコセンターでは9名の障がいをお持ちの方に就労いただき、使用済みフィルムの圧縮梱包作業等をお願いしています。
コープCSネットの理事長の小泉は、かつて生協ひろしまの特例子会社として「株式会社ハートコープひろしま」を立ち上げるなど、障がいをお持ちの方の雇用に積極的に取り組んだ経験があるのですが、2013年にエコセンターを立ち上げる際にも、リサイクルオペレーションを障がいをお持ちの方に担っていただけないかと考え、コープCSネットの特例子会社として「株式会社ハートコープおのみち」が設立されました。

そのため、エコセンターは障がいをお持ちの方に就労いただくことを前提に設計されています。立ち上げ時には参考となる事例がなく、古紙問屋など、実際に圧縮梱包作業を行っている現場に何度も赴き、作業を見学させていただきました。そうして作業フローや動線を想定しながら、安全性を確保した上で、作業効率を高めると同時に作業負荷を低減できるようレイアウトを設計。役割をヘルメットの色で明確化したり、作業負荷が偏らないようにシフトを組んだりと、オペレーション上、マネジメント上の工夫もしています。その甲斐もあり、設立以来、無事故ですし、障がいをお持ちの方の定着率も非常に高い状況が続いています。

とは言え、問題がなかったわけではありません。稼働を始めた当初は、習熟度が低く、作業も計画通りには進みませんでした。ですが、根気よく丁寧に作業に注力いただけたおかげで、時間とともに皆さんの習熟度が増し、自ずと作業効率も高まっていきました。圧縮梱包作業は原料を投入して圧縮するだけではあるのですが、機械に投入する量や入れ方によって、出来上がりの質が変わってきます。初めはキューブ状にならずガタガタな仕上がりだったのが、今ではお手本のような綺麗なベールに仕上げていただけています。

また(株)ハートコープおのみちは備後地区で初めての特例子会社であり、地域の作業所から毎年多くの方が、職場実習として就労体験をしに来ていただいています。SDGsでも「働きがいも経済成長も」というゴールが設定されていますが、障がいをお持ちの方が就労体験できる場所というのは少ないため、そうした機会を提供するという点も、エコセンターが果たすべき役割だと感じています。

Press 3 これからの事業展開

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Q7:今後の展望についてお聞かせください。

A7:クローズドループの取り組みやエコセンターのノウハウを全国の生協と共有したいと考えています。

グリーンシフトが叫ばれる今、環境に配慮しない企業は淘汰されていくリスクを孕んでいると言えるかと思います。コープCSネットとしてもそうした危機感から環境配慮型の取り組みを進めているわけですが、先に述べた通り、全国の数ある生協を見回してみても、事業活動を通じて排出されるプラスチック廃棄物のクローズドループが構築できているのは、コープCSネットだけだと思います。

この取り組みについては特段、対外的に宣伝しているわけではありませんが、昨今の社会潮流を踏まえれば、今後、同様のクローズドループに取り組みたいと考える生協が出てくることは間違いありません。FILM to FILMはフィルム製品のリサイクル手法としては、現時点での最良の一手だと認識しています。全国に先駆けてこうした取り組みを行えているわけですので、今後、全国の生協に対してこのノウハウを共有していけたらと考えています。

エコセンターではJFKをキーワードに事業を行っております。JFKとは、事業、福祉、環境の頭文字で、つまり、事業性を持たせながら、福祉や環境の諸問題に取り組んでおります。おかげさまで2013年の設立以来、社会潮流も後押しとなって、九州や四国をはじめ、尾道をロールモデルとした施設が全国に立ち上がっております。こうした社会や地域の問題を解決するような取り組みというのは、今後、ますます社会に求められるように思います。同じようにクローズドループの取り組みが全国津々浦々にまで広まっていくと嬉しいですね。

Q8:リサイクルを進めていくためのアドバイスがあればご教示ください。

A8:環境配慮にかかるコストを必要経費と捉え、ステークホルダーとベクトルを揃えることだと思います。

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アドバイスというほどのことではないですが、組織として環境に配慮するためにかかる経費を必要経費だと認識することが重要だと思います。リサイクルをするためには加工コストや輸送コストがかかるため、再生原料を使用した製品はバージン原料を使用した製品よりも、価格が割高になるケースが少なくありません。しかし一方で、再生原料由来の製品は、バージン原料由来の製品よりも、環境負荷を低減することができます。単純に価格だけを比べた場合、一見すると割安感のあるバージン原料由来の製品の方が賢い選択だと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「安ければ安いほど良い」という考え方は、時に持続可能な選択とは言えません。対外的にはSDGsESGへの対応をうたっていても、判断基準がコストであれば、グリーンウォッシュと揶揄されかねず、結果的に企業としてのブランド価値を毀損する恐れがあると言えるのではないでしょうか。

リサイクルに取り組む意義や目的をステークホルダーに理解してもらい、そのための経費を、企業が社会的な存在として負うべき責任を果たすための必要経費と捉えられるかどうか。もちろん経営層のマインドセットはもちろん重要ですが、リサイクルは組織横断的な取り組みのため、事業に関わる利害関係者のベクトルを合わせることが重要だと感じます。コープCSネットもそうですが、組織が大きくなるにつれてどうしても縦割りになってしまいます。ですが、縦割りで横の繋がりがないと、グリーンシフトの移行は難しいように思います。

Q9:プラスチックリサイクルについての理想像はありますか。

A9:マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの両輪で、全てのプラスチック廃棄物をリサイクルできるようになることを目指したいと考えています。

現状としては、マテリアルリサイクルできるものはマテリアルリサイクルをしておりますが、それが叶わないものについてはサーマルリサイクルや産業廃棄物として処理しています。ご存知の通り、グローバルスタンダードではサーマルリサイクルはリサイクルとしては認識されておりませんので、サーマルリサイクルや産業廃棄物として処理するということは、今後、減らしていかなくてはならないと考えております。

その中で鍵となるのが、ケミカルリサイクルの普及であり、コープCSネットとしても期待を寄せています。ケミカルリサイクルはマテリアルリサイクルが困難なプラスチック廃棄物であっても、技術的にバージン品質にまで戻すことができますので、それができればプラスチック廃棄物を半永久的に循環させながら使い続けることができ、まさしくサーキュラーエコノミーが実現するのではないでしょうか。ただ、全国各地でケミカルリサイクルプラントが立ち上がっていると聞きますが、普及するのはもう少し時間を要するように思います。また、ケミカルリサイクルはエネルギー消費の観点からも、マテリアルリサイクルの方が優先すべきリサイクル手法だと認識しておりますので、目下の課題としては、マテリアルリサイクル率の向上であることに変わりはありません。海外の輸入規制やバーゼル法の改正もありましたので、海外循環ではなく、国内循環の比率をいかに高めていけるか。コープCSネットとしては、引き続き、自社のプラスチック廃棄物の国内循環に向けて、クローズドループの構築も含め、取り組んでいきたいと考えております。

繰り返しになりますが、コープCSネットでは組合員の皆様にご協力いただきながら、プラスチック廃棄物の回収を行っておりますので、コープCSネットとしては、何がなんでもリサイクルを続けていく必要があり、それが責務だと考えております。各国の法規制なども外部環境の変化が激しい状況が続いてはおりますが、パンテックをはじめ、ステークホルダーの皆様とともに、サーキュラーエコノミーへの移行を進めていきたいと考えております。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

 

まとめ