株式会社横浜八景島様

シングルユースプラスチックだからこそリサイクル! ドルフィンパフォーマンスで使用されたポンチョを館内で使用するポリ袋に再生利用

アクアパーク
株式会社横浜八景島
マクセル アクアパーク品川
リーダー|羽毛田 優子 様
シニアスタッフ(運営担当)|寺田 拓未 様

図1-1

事例の概要

株式会社横浜八景島が運営する「マクセル アクアパーク品川」は、プロジェクションマッピングなどの先端技術を用いた多彩な演出により、海の世界・生きものたちの魅力を伝える「TOKYO最先端エンターテイメント」。同館では20243月より、人気イベント「ドルフィンパフォーマンス」の鑑賞時に来場者に水飛沫の演出を楽しんでいただくための「使い捨てポンチョ」を、館内で使用するポリ袋に再生する取り組みを開始されました。
先行事例がほとんどない水族館での「フィルムtoフィルム」の水平リサイクルに、“ファーストペンギン”のように果敢にチャレンジされた同館の思いやこれまでの経緯について伺いました。

※ 本記事の掲載内容は全て取材当日時点の情報となります。

Before
シングルユース(使い捨て)のポンチョのリサイクルに取り組みたかったものの、回収量の少なさや塩分の含有などを理由に、4年もの間、協力してくれるパートナーを見つけられずにいた
After
リサイクル実現の妨げとなっていたボトルネックが解消でき、念願だったシングルユース(使い捨て)のポンチョのリサイクルを開始することができた

1. プロジェクト発足の背景と経緯

―プラスチックの資源循環に関する取り組みは、これまでにも行われてきたのでしょうか?

羽毛田氏 「マクセル アクアパーク品川」を運営する株式会社横浜八景島では、サステナビリティアクションとして「ほほえムービング」というプロジェクトを行っております。当館でも「種の保存」をテーマに生きものの繁殖を行い、それを展示解説するエリアを設けたり、生きものたちが暮らす環境を豊かにし、多様な行動を引き出すエンリッチメントに取り組んでいますが、プラスチックの資源循環をテーマとする取り組みは今回が初めてですね。

寺田氏 当社が運営する他の水族館では海洋プラスチックゴミを題材とするSDGs啓発イベントやビーチクリーンなど、プラスチックに関連する取り組みは実施していますが、今回のように不要なプラスチックを回収して再生するというのは前例がないように思います。

 

―色々なプラスチックを使用されている中でなぜポンチョを対象にされたのでしょうか?

羽毛田氏 使用済みポンチョは当館から排出されるプラスチックゴミの中で、圧倒的に多くの量が排出されるからです。当館のドルフィンパフォーマンスは、音楽や光の演出にもこだわりながら季節に合わせてテーマを変えて実施している人気のイベントで、会場は観覧席と立ち見席を合わせて、1回あたり最大2,000人規模です。
昼のプログラムでは、会場前方の観覧席はイルカがジャンプして着水する際の水飛沫がかかりますので、ポンチョを使用される方が多いのですが、ドルフィンパフォーマンスは夏場には1日あたり5~6回実施しており、多くのお客様にパフォーマンスを楽しんでもらうと、どうしてもポンチョの廃棄量も増えてしまいます。やはり濡れたポンチョをお持ち帰りいただくことはほとんどありませんし、マイポンチョをお持ちいただくこともハードルが高く、お客様ニーズから考えて使用済みポンチョをリサイクルすることを最優先に検討すべきだと考えておりました。

寺田氏 またポンチョは嵩張るんですよね。お客様が多い時だと、1回のパフォーマンスで大きなポリ袋に4袋、5袋分のポンチョが廃棄されます。使用済みポンチョは、回収して廃棄するまでに時間も手間も、そしてお金もかかっていました
また当館としてもESGやサステナビリティに関する取り組みを行っていると言いながら、大量のプラスチックゴミを排出しているというところに矛盾を抱えていました。中でもポンチョは短時間使った後に廃棄されるシングルユース(使い捨て)のプラスチック製品で、排出者責任として削減していかなければなりません。特にコロナ禍あたりから社会の流れも変わり、これまで以上に環境への配慮を強く意識しなければならないと感じるようになっていました。排出者責任を果たすためにも使用済みポンチョのリサイクルを検討することは、当館として喫緊の課題であるとの認識がありました。

羽毛田氏 使用済みポンチョのリサイクルはコロナ禍前から課題としては認識していたものの、専門の部署もなく、私が一人で日常業務と並行して対策を検討していたこともあり、なかなか解決の糸口が見つからない状況が続いていました。期間にして4年くらいは検討に時間がかかってしまったように思います。

図2jpg

 

2. パンテックをリサイクルパートナーに選んだきっかけ

― 検討を進める中でどのような課題があったのでしょうか。

羽毛田氏 これまで使用済みポンチョは資源ごみとして処理されていましたが、そのルートを変えて再生させるということは当館としても初めての試みでしたし、その分野に詳しいスタッフもいません。もちろん私も専門外ですので、検討を始めた当初は何をしたら良いか分からず、検索バーに「プラスチック リサイクル」と打ち込んで、手当たり次第に情報収集をするところからスタートしました。
プラスチックリサイクルを請け負っているという企業にも複数社に対して相談をさせていただきましたが、なかなか条件が合わず、パートナー探しには苦労しました。私たちにとっては使用済みポンチョを大量に排出している感覚ではありますが、回収事業者にとっては1回の回収あたり、数百kg〜数tはないと回収を請け負ってもらえないところがほとんどでした。当館では圧縮機などを導入していませんので、保管できる量にも限りがあり、なかなか回収していただける基準をクリアできませんでした。また夏場に比べて冬場は排出量が減りますので、年間を通じて排出量にばらつきがあるということもボトルネックでしたね。その上、海水を含んでいると機械が錆びてしまうということでリサイクル事業者からもお断りされるケースも多くありました。加えて、回収事業者とリサイクル事業者と別々に契約する必要があるなど、運用面でも工数がかかることが多く、現実的なご提案をいただけず、半ば諦めかけていました
そんな中で、「海洋プラスチック リサイクル」をキーワードに検索をしたところ、パンテックのウェブサイトに辿り着きました。ウェブサイトを拝見し、手がけられてきた事例なども読ませていただくと、実績が豊富でデザイン会社などとのコラボレーションなどもされていることが分かり、藁にもすがる思いで連絡をさせていただきました。

 

― パンテックを選んでいただいた決め手について教えてください。

羽毛田氏 そうですね。単純に当館のニーズに寄り添ったご提案をいただけたというのが決め手でした。
回収にあたって回収量の下限を設定されることもありませんでしたし、回収頻度も置き場の状況に合わせて対応していただけるということでしたので、その柔軟性は他社にはない魅力だと感じました。また海水を含んでいても問題がないと回答していただけたのも大変助かりましたね。その上、回収からリサイクル、そして再商品化に至るリサイクルスキーム全体をプロデュースしていただけるということで、契約も1つで済みますし、運用も煩雑にならない。検討を始めてからボトルネックだと思っていたところが協議を進める中で解消できたので、「もうパンテックさんしかいない!」とお願いすることに決めました。

図3

 

3. リサイクルプログラムの運用

― 2024年の3月から回収がスタートしましたね。

羽毛田氏 今年の2月に当館として決裁がおりて、ようやく3月から回収をスタートさせることができました。検討を始めてから4年近く経過していましたので、個人的にも感慨深いものがありました。3月はまだまだ当館としての体制が整っていなかったこともあり回収量は数キロと少量でしたが、初めの一歩を踏み出せたということに大きな意味があったように思います。
4月からはドルフィンパフォーマンスのトレーナーや清掃スタッフがパフォーマンス終了後に「使用済みポンチョの回収にご協力ください」とお客様にアナウンスをしたり、ゲストリレーション担当のスタッフがポップを作って、ポンチョの販売時にお客様に取り組みをご紹介したり、当館スタッフとお客様の理解と協力もあって、取り組みが軌道に乗り始めたように思います。

寺田氏 3月から始めて回収量は右肩上がりで増えていますが、当初はこれほど着実に回収量が増えていくとは想定していませんでした。そもそも使用済みポンチョの廃棄量を正確に把握できていなかったので、回収量が増えると嬉しい反面、これだけ廃棄していたのかという驚きもありました。ポンチョは1枚では40g程度しかありません。それが6月には月間回収量が500kgを超えましたから、1万人以上ものお客様が回収にご協力してくださった計算です。ドルフィンパフォーマンスは夏場にかけて来場者数が増加するため、7〜9月は更に回収量が増えそうなので、回収頻度を増やしていただく必要もあるかと思います。

 

― 使用済みポンチョの循環型リサイクルプログラムを開始された反響はいかがでしょうか。

羽毛田氏 年間パスポートをご購入いただいているリピーターのお客様から「ポンチョのリサイクルをしているんだね!」と驚きの声をいただくことがあり、回収にご協力いただけるお客様も多いので、好意的に受け止められていると感じます。
また当館においては初めての試みということもあり、またこれまでの課題を解決する取り組みでもあるので、経営層からの関心が高く、期待を寄せられています。清掃スタッフも回収の負担が軽減されたと喜んでくれています

寺田氏 運用面でもかなり慣れてきた印象があります。私たちのみならず、当館のトレーナーや清掃スタッフ、ゲストリレーション担当のメンバーにも取り組みが浸透してきていると実感しますし、お客様の認識も広がってきていると感じます。初回は使用済みポンチョ以外に紙コップなどのゴミが混入することがありましたが、それも最近ではほとんどなくなってきました。今後、この取り組みを継続的に行っていけばリサイクルすることが当たり前になり、使用済みポンチョの回収量が増えてくるかなと思います。

図4

 

4. 今後の展望

― 今後の展望についてお聞かせください。

羽毛田氏 今年は取り組みを定着させることを目標としておりますが、今後は回収した使用済みポンチョを当館のオリジナルアイテムに生まれ変わらせることができたらと考えています。現在は当館から回収していただいた使用済みポンチョをポリ袋に変えて、それを館内で使用していますが、お客様や当館で飼育する生きものたちに還元できたら嬉しいですね。

寺田氏 秋に当社でSDGsを啓発する「サステナビリティウィーク」というイベントがあり、そこでは海の環境や生きものについて感じ・考えるきっかけを提供すべく企画を考案しているのですが、合わせてポンチョから生まれ変わった何かをお披露目できると、取り組みの勢いも増すように思います。もちろん現在行っているポンチョをポリ袋に再生するフィルムtoフィルムの水平リサイクルは環境に配慮した取り組みで良いのですが、将来的にはプラスアルファの動きを検討できたらと思います。やはりお客様のご協力があってこその取り組みなので、ギフトショップで販売できるような商品に循環させられるのが理想ですね。

羽毛田氏 パンテックさんが携わっている「ReTA BASE」などのような商品ができると良いですね。「ReTA BASE」のバッグは私も個人的に愛用しておりますが、軽くて丈夫ですし、汚れや水にも強いのでかなり使い勝手が良くて重宝しています。また、当館が従来より取り組んでいるエンリッチメントと関連させて、フィーダー(ごはんを入れたおもちゃ)などに再生できると、これまでとは違った観点から当館のESGやサステナビリティを発信できると思うので、ぜひ実現させたいです。
まだ使用済みポンチョのリサイクルの取り組みは始まったばかりですが、今後ともパンテックにご支援いただき、取り組みを大きく育てていければと思います。

図5