生活協同組合パルシステム神奈川様
宅配で使用した袋を石けんケースに生まれ変わらせる 「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」

環境推進部 環境推進課 課長|海野 満 様
環境推進部 環境推進課 副主任|髙木 健多郎 様
環境推進部 環境推進課 事務担当|川上 嘉絵 様
事例の概要
パルシステム生活協同組合連合会(以下、連合会)の会員生協の一つである生活協同組合パルシステム神奈川(以下、パルシステム神奈川)は、連合会と連動しながらも、独自の環境理念に基づきサステナビリティに関する取り組みを展開されています。その中で、組合員の皆様とともに長きに渡って取り組まれている活動の一つが、国内資源循環と廃棄物の削減の推進を目的とする容器包装のリユース・リサイクル活動です。2023年度には資源回収率の更なる向上を目指し、宅配で使用した高密度ポリエチレン製の「カタログ・商品まとめ袋」(以下、まとめ袋)を製品にリサイクルして組合員の皆様に還元する企画を推進。
2024年度にその第2弾として取り組まれたまとめ袋を石けんケースに生まれ変わらせる「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」をパンテックが支援させていただきました。パンテックの支援に対する感想や得られた成果について、環境推進部の海野さん、髙木さん、川上さんの3名に伺いました。
※ 本記事の掲載内容は全て取材当日時点の情報となります。
- 宅配で使用した「カタログ・商品まとめ袋」をリサイクルして、組合員の皆様に還元する企画を伴走支援してくれるパートナーが見つからない
- この企画を通じて資源回収率を向上させたい
- 宅配で使用した「カタログ・商品まとめ袋」を組合員の皆様から要望のあった石けんケースに生まれ変わらせることができた
- 資源回収率を昨年より20%向上することができた
1. 企画の背景とこれまでの経緯
― 環境やサステナビリティに関してはどのような取り組みをされていますか?
海野氏 連合会では多様なステークホルダーを巻き込みながら、サステナブルな未来に向かって「もっといい明日へ超えていく」をコンセプトに「食」「環境」「地域社会」「平和・多様性」に関する取り組みを幅広く展開しています。「環境」に関して言えば、2050年のカーボンニュートラルを目指して、2030年度までに温室効果ガス(以下、GHG)の排出量を2013年度比で46%削減するという目標を設定しています。そのほかプラスチック関連では、組合員の理解と協力のもと、「配送」と「回収」という生協ならではの仕組みを生かし、長年3R(リデュース・リユース・リサイクル)に注力しています。
川上氏 パルシステム神奈川は連合会の会員生協の一つですので、連合会のそうした取り組みと連動しながらも、独自に環境理念や環境方針を掲げて取り組みを推進しています。
海野氏 特徴的なのは生活協同組合(以下、生協)として組合員を巻き込みながら取り組みを行なっているという点です。例えば、GHGの排出量を捉える時に「スコープ1(自社が直接排出するGHG)」「スコープ2(自社が間接排出するGHG))」「スコープ3(原材料仕入れや販売後に排出されるGHG)」というような分類があるかと思いますが、生協ではそれに加えて、組合員の生活で排出されるGHGについても考慮する必要があります。プラスチックの使用量や廃棄量の抑制などについても同様なので、組合員をいかに巻き込んで取り組みを進めていくのかというところに一般企業とは違った難しさがあると感じています。
― 「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」の立ち上げの経緯について教えてください。
川上氏 連合会と同様にパルシステム神奈川でも、国内資源循環と廃棄物の削減を進めるために、「容器包装リサイクル法」に則り、組合員の皆さんとともに容器包装のリユース・リサイクル活動を長年行っています。対象としているのは、プラスチック(PETボトル、米袋、プラスチック袋など)や古紙(商品カタログ、紙パック、ヨーグルトカップ、たまごパック、トレーなど)、ガラス(瓶)など様々ですが、回収率はアイテムによってかなりばらつきがあるんですね。商品カタログやたまごパックのように回収率が70%を超えるものもあれば、宅配で使用しているまとめ袋については回収率はここ数年23~24%にとどまっているものもあります。「容器包装リサイクル法」では自主回収できなかった容器の再商品化実施委託料を指定法人に支払う義務があり、パルシステム神奈川はまとめ袋だけで年間約600万円支払っています。まとめ袋の回収率が上がれば上がる分だけ支払い額が少なくなることもあり、パルシステム神奈川ではまとめ袋の回収率アップに向けた取り組みを行ってきました。
2022年度に取り組んだのが13の配送センターごとに回収率を算定してランキングを公表するという企画でした。これは順位が出ることによって組合員の皆さんの回収意欲が高まるのではないかという仮説にもとづく取り組みだったのですが、残念ながら2年ほどやっても大きな成果に結びつきませんでした。そこで2023年度にはランキングと並行して、回収させていただいたまとめ袋を牛乳パックや食品などのパッケージを簡単に開封できる「パックカッター」にリサイクルして、それを組合員の皆さんにプレゼントするという企画をしました。そうしたら1,300名を超える組合員の皆さんから応募があるなど、大きな反響がありました。これに手応えを感じまして、2024年度には第2弾としてさらに魅力的なものにリサイクルしようということになり、何にリサイクルするか、グッズについての検討をスタートさせました。
海野氏 もちろんこれまでも組合員の皆さんから回収させていただいたものはマテリアルリサイクルしていましたが、プラスチック類が建築資材の敷板などにリサイクルされていても直接組合員の皆さんのもとに製品が戻ってくるわけではないので、あまり実感が持てないじゃないですか。それに対してこの企画は、組合員の皆さんにリサイクルしたグッズ(以下、リサイクルグッズ)が直接戻ってくるので、実感が伴うということもあって反響が大きかったのだと思います。
川上氏 ランキングは対抗戦のようなイメージですが、こちらは一つの目標に向かってみんなで取り組んでいくクラウドファンディングのようなイメージで企画しました。ある一定期間みんなで一緒に頑張って取り組みましょう、サステナブルな社会を一緒につくっていきましょうという「協同」を意識したこともあり、組合員の皆さんも参加しやすかったのかもしれません。
海野氏 生協は消費者一人ひとりがお金(出資金)を出し合い、協同で運営・利用する組織で、組織運営にも組合員が参画しています。一般的な企業であれば事業性を重視した運営が行われることが多いかと思いますが、生協は組合員の生活環境をいかに良くしていけるのかというところに重きを置いています。そのためリサイクルグッズを検討する際にも、「組合員の生活にどう還元されるのか」ということが求められます。
リサイクルグッズの検討時に私が最初に提案したのはボールペンだったのですが、組合員の皆さんからはボールペンをもらったとしても使わないことが多いので、それは逆に無駄ではないかというご意見をいただきました。このように組合員の皆さんにも色々とフィードバックをいただきながら、検討を進めていきました。
川上氏 組合員の皆さんに納得していただくためには、面白そうというような単純な理由だけではダメなんです。パルシステム神奈川としてやる意義があるのかということが問われます。ストーリーがあり、環境方針とのリンクがないと認められません。最終的にはパルシステムとして、合成界面活性剤を使用しておらず川や海だけでなく肌にもやさしい石けんの利用を1970年代から勧めていることもあり、それに関する既存の取り組みとの相乗効果も狙って、石けんケースを作ることになりました。
2. パンテックをリサイクルパートナーに選定した理由
― パンテックとの出会いのきっかけとパンテックをパートナーに選定した理由を教えてください。
川上氏 まとめ袋を石けんケースにリサイクルすることは決まりましたが、その時点ではリサイクルパートナーは決まっていませんでした。ちょうどそのタイミングで開催されていたプラスチックリサイクルに関する展示会に参加したのですが、それがパンテックさんとの出会いでした。
髙木氏 私は2024年4月に環境推進課に異動になったのですが、プラスチックリサイクルについての細かいことが分からないまま5月のその展示会に参加して、今回の企画を伴走してくれそうな企業を探し回っていました。その時にパンテックさんのブースで化粧品容器を植木鉢に再生するファンケルさんとの取り組み事例をご紹介いただき、今回の企画との親和性を感じました。詳しくお話を伺うと、「プラスチックリサイクルのトータルプロデュース」を標榜されている通り協力先が豊富で提案の引き出しが多いことが分かり、そこに魅力を感じました。
川上氏 その後、具体的にお話を進めていく中でこちらの要望をお伝えしたら、色々な角度からご提案をいただけたのでパートナーとして安心してお任せできそうだと感じました。それが選定の大きな理由です。1つに絞った提案ではなく、こんなことはどうか、あんなことはどうかと選択肢を出していただけたのはありがたかったですね。
髙木氏 ファンケルさんをはじめ、回収したプラスチックを別の製品に生まれ変わらせる取り組みの実績が豊富だったということも後押しになりました。
― パンテックの他社にはない独自性はどんなところだとご評価いただいていますか?
川上氏 本生産に入る前にまとめ袋から石けんケースを作るにあたっての成型条件を検証していただきましたが、それは他社にはない独自性かと思います。自社のデータベースからまとめ袋由来の再生原料と組み合わせるのに適した再生原料を選定していただいたり、配合率についてもどの配合で成型するのが最適なのかを自社施設で検証していただいたりして、非常に安心感がありました。
石けんケースのパッケージについても、素材や形状のほか、グラフィックデザインも数パターンご提案いただけたこともありがたかったです。パッケージデザインの検討を進める中で、組合員の皆さんにも検討のプロセスにご参加いただく機会をどうしても作りたくて、SNSを活用して組合員の皆さんに好きなパッケージデザインに投票していただくことにしましたが、そんな要望にも柔軟にご対応いただき本当に助かりました。組合員の皆さんにとっても、自分たちの意見でパッケージデザインが決まるということで、楽しんで投票にご参加いただけましたし、より一層、自分ごととして今回のプロジェクトを捉えていただけたのではないかと感じています。
3. プロジェクトの成果
― 「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」の組合員からの反響はいかがでしたか?
川上氏 まず石けんケースのプレゼントには人数にして合計2,609名の方からの応募がありました。応募数は第1弾のパックカッターの2倍だったので、とても反響が大きかったです。ウェブサイトにも今回の「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」についてのページを作ったのですが、その閲覧回数も広報開始の2024年11月1日から応募の締め切りの2025年2月28日までに10,981回閲覧がありました。これはパルシステム神奈川のウェブサイトの全ページの中でも3位の閲覧回数だったのですが、1つの企画でここまで多くの方が見てくださるというのは過去に例がなく、私たちも非常に驚いています。この結果からも本当に多くの方が興味を持ってくださっているのが分かりました。
海野氏 ウェブサイトの閲覧回数は普通だと事業に関するページが多くて、商品や配送センター、配送ルートなどのページがベスト10ぐらいを占めるんです。今回のような企画ページの閲覧数が上位になることはないんですが、今回は異例でしたね。
川上氏 まとめ袋の回収量についても昨年比で20%以上も向上して、期間中に65.7トン回収することができました。まとめ袋の回収量を向上させるという今回の企画の目的は果たせたのではないかと考えています。
― 「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」の成功に向けてどのような工夫をされましたか?
川上氏 先ほどのウェブサイトの閲覧回数にも関係しますが、期間中は随時ページを最新情報に更新するようにしていました。それもあって、同じ方が繰り返し訪れてくれたのだと思います。
海野氏 また、回収量が増えれば増えるほど、石けんケースのプレゼント数を増やすという仕組みも取り入れました。期間中の回収量が昨年比10%増の59.0トンであれば300個、昨年比15%増の61.7トンであれば400個、昨年比20%増の64.0トンであれば500個というようにしたのですが、結果的には回収量が65.7トンで今回作った石けんケース500個を全て組合員の皆さんにプレゼントすることができました。回収量が昨年比25%増の67.1トンを超えれば、パックカッターも200個プレゼントすることにしていたのですが、残念ながらそこまでは到達できませんでした。とはいえ、繰り返しにはなりますが、回収量が昨年比で20%以上も向上したという結果は十分な成果だと感じております。
川上氏 あと、今回の「プラっとつなぐ石けんケースプロジェクト」に合わせて、「リユース・リサイクル ミニBOOK」というチラシを制作して、組合員の皆さんに配付しました。内容は企画の説明や石けん商品のご紹介のほか、リユース・リサイクル品の戻し方、そしてどのような製品にリサイクルしているのかを記載しています。リユース・リサイクルへの関心を高めていただきたいので、蛇腹折りのチラシにして、コンパクトに折りたたんで保管して繰り返し見ていただけるように工夫しました。
髙木氏 このチラシを配付したときは毎日問い合わせが来たんですよね。こんなことめったにないんです。普段はなかなか紙を見てくれる人がいないので、本当に反響が大きかったです。そのほか、まとめ袋が石けんケースになるまでの工程をまとめた動画も制作しました。
川上氏 動画はウェブサイトから誰でも見られる状態で公開していて、石けんケースのパッケージに印刷されている二次元バーコードからもアクセスできるようにしています。「パル*ゆめちゃんねる」というパルシステム神奈川YouTubeチャンネルでも公開しているので、ぜひ多くの方に視聴していただきたいですね。
髙木氏 動画の撮影は私が担当し、編集は海野がしています。多くの方に見ていただきたいので、撮影も編集も色々と工夫をしました。この動画は今後もまとめ袋の回収率向上のために色々と使っていきたいと考えています。
4. 今後の展開
― プラスチックの資源循環に関して今後どのような取り組みを行いたいですか?
髙木氏 会議の中でも今回の流れは続けていきたいという意見は出ていますが、今後の目標やリサイクルグッズについてはこれから検討していく予定です。グッズではなく、寄付につなげてはどうかというアイデアも出ていますので、グッズに限定せず、色々な可能性を模索したいと考えています。その際にも組合員の代表である理事にもご意見を伺いながら、生協らしさやパルシステムらしさを感じていただける企画に落とし込めたらと思っています。
海野氏 自治体のプラスチックの資源回収では様々な樹脂が混在しているので分別が難しく、大半がサーマルリサイクルされていますが、ご存じのようにこの手法をリサイクルとみなさない国が海外には多くあります。一方で我々は自治体のプラスチック資源の回収とは違って、商品を宅配する際にプラスチック資源を組合員の皆さんから回収して、素材別に丁寧に分別するという仕組みが整っています。回収の際には組合員の皆さんにも分別にご協力いただき、その上でドライバーや配送センター、リサイクルセンターなど多くのスタッフが関わりながら分別精度を高めていきます。だからこそ質の高い資源循環が実現できていると自負しています。
それを組合員の皆さんに実感していただけるような取り組みがしたいですね。自分自身の行動が資源循環につながっているという実感を持っていただければ、回収率の向上にもつながり、さらに資源循環が進むのではないかと思います。今回のような企画に限らず、組合員の皆さんに資源循環を実感していただける施策が実施できればと考えています。
― 最後に、パンテックに期待することをお聞かせください。
川上氏 パンテックさんのウェブサイトの「事例紹介」を見ると参考になる取り組みが多く掲載されていたので、これからもそうした事例を増やしていって欲しいです。また「ReTA BASE」のように再生原料を使用しながらもプロダクトとしてかっこいいものは組合員の皆さんにも関心を持っていただけるかと思いますので、そうした企画を一緒に考えていただければうれしいです。
海野氏 今回はまとめ袋から石けんケースを作りましたが、まとめ袋に限らず、回収している資源から組合員の皆さんが驚くようなものに生まれ変わらせることができれば面白いですね。ぜひそうしたご提案をいただけるとありがたいです。何を作るかということもそうですが、配合率が高くなるということも、組合員の皆さんに自身の取り組みが質の高い資源循環に繋がっているということを実感していただく契機にもなるかと思いますので、配合率を高めていくということにもチャレンジしたいですね。理想はまとめ袋をもう一度まとめ袋に再生する水平リサイクルだと思いますので、その実現に向けてもご支援いただけると助かります。