中国には、中国プラスチックリサイクル協会という団体があります。プラスチック製品メーカーや原料会社はもちろん、プラスチック製品の加工機械メーカーなど、中国国内のプラスチックリサイクル産業に関わるありとあらゆる企業が加盟している業界団体です。
この中国プラスチック協会が、年に2回、2日間にわたるプラスチックリサイクル会議というイベントを開催しています。業界の振興を図ることが主目的のイベントで、会議場では政府関係機関の担当者を招いての講演、成長企業の成功事例発表、製品のプレゼンテーションなどを行う他、展示ブースを設けて企業同士の商談もできるようになっています。
前述した11月の出張の目的の1つというのがこの会議への参加でした。11月3日・4日に厦門(アモイ)で開催された今回の会議の来場者は約500名で、日本からも弊社を含めた数社の参加があったようです。
私の参加目的は、中国プラスチック産業界の情勢と動向、あるいは中国政府が掲げる環境政策の方向性といった情報を把握することです。特に政府がどのような考え方に立って政策を決めようとしているのかを把握することは、廃プラスチックのリサイクルに関わる企業としては非常に重要です。
今回講演をした政府関係機関は、環境部、税関、工信部という3つの部署です。環境部は日本の環境省、工信部は経済産業省と考えていただけばイメージしやすいと思います。それぞれの機関から担当者が来て、政府の立場で今どんなことを考えているのかを説明されました。これは環境問題の深刻化に伴い、環境規制を強める政府が今後どのような政策を採ろうとしているのかを知りたい協会からの要請に応えたものです。環境政策は、協会に加盟する企業にとって死活問題につながることがあるため、その動向には高い関心が持たれています。一方の政府側には、自分たちが示した考えに対する企業の声を聞く機会となります。つまりプラスチック会議は、中国のプラスチック産業界と政府機関による意見交換の場となっているのです。
プラスチックのリサイクルを行う企業にとって、中国における再生プラスチックの需要の動向は、非常に気になるトピックの1つです。中国税関がプラスチック会議の中で、2016年1月-10月期の中国における再生プラスチック輸入に関する統計数値を発表しました。その中から気になる項目を抜粋して紹介いたします。
対象期間における再生プラスチックの輸入量は中国全体で538万tでした。前年の同一期間と比べると、-11万t、比率にして-1.8%と大きな変化はありませんでした。その一方で、平均単価は前年比-$73/tと大きく下落しています。
ちなみに国別で見ると、1位は香港約140万t、続いて日本とアメリカが拮抗して約60万tとなっています。ただし香港の約140万tという数字は、単純に税関を通過した量であって、純粋に香港で排出されたものの数字ではありません。というのも、広州税関を通過するものは、いったん自由貿易港である香港を経由するものが圧倒的に多いからです。日本からも5万tほどはいったん香港に入って、そこから広州へと販売されています。
品目別では、PE類205万t、PET類198.4万tとなっていますが、これは輸入者の申告ベースであるため信憑性は低いと言わざるを得ません。品目によって関税が異なっており、多くの輸入者が関税の低い品目で申告していると考えられるためです。
これらの数字を受けて、協会の代表は、「2016年は苦しい年でしたが、公明正大に事業展開をされている企業はいずれも問題はなく、健全な経営をしている」と評価していました。相場は相場としてありますが、堅調にリサイクル素材をもとにモノづくりをしている企業は多くあるということです。
中国の再生原料の輸入規制政策は、環境政策と大きく関連します。したがって、それぞれを管轄する環境部と工信部の方向性はある程度一致しています。今回の会議における環境部と工信部の話から推察すると、輸入に関する規制は現状と大きな変化はなさそうです。
「ない」と明言できないのは、政府機関自体が具体的な政策情報を公表しないからです。会議全体を通じて政府機関からの話には、2017年の政策を明確に示すものはありませんでした。明確に言ってしまうと、後々責任問題につながりかねないため言いたくないというのが本音でしょう。しかし中国政府が現在何を問題としていて、どのように解決したいのか、漠然とですが方向性を示しました。
まず、大前提として、言い切ったことが1つだけあります。それは「環境規制が緩くなることは100%ない」ということです。その背景にあるのは、もちろん中国国内の環境問題です。2013年にはグリーンフェンス政策を施行し、通関検査が非常に厳しくなり、それまで取扱いが可能だったものが急にできなくなったという経緯があります。日本でもたびたび報道される通り、中国では現在においても空気や水の汚染が深刻であり、国民の大きな不満にもつながっています。
プラスチックリサイクル産業に関わることで言えば、現在、政府が手を焼いているのが国内を発生源とする廃プラスチックの管理です。輸入に関しては、ライセンス制度や出荷前検査制度など、ある程度制度が完成し、コントロールが出来ています。しかし、中国国内でプラスチックリサイクル原料を使用する企業に、細部まで目を行き届かせることはできていません。政府は企業に汚染処理設備の導入を促進しようとしてきましたが、家族で経営しているような零細事業者は投資ができないため、適切な処理をせずに処分しているのが現状です。
そこで中国国内のプラスチックのユーザー企業に対して、事業者としての資質を厳しく監査する方向性が出てきています。ここでいう資質とは、汚染処理能力です。つまり、汚染処理設備を保有するか否かで企業を峻別していこうという考えです。汚染処理設備を保有できるということはある程度規模の大きな企業になります。やはり具体的な施策は示しませんが、一定の規模を持った企業を税金などの面で優遇するという政策上の不平等を生むことで、コントロールの効かない零細企業を自然淘汰していこうという方向性のようです。
ただし、いくら汚染処理設備の導入を促進しても、汚染処理をする以上、程度の差はありますが確実に汚染は出ます。そこで中国国内での汚染処理をできるだけなくしていこうという議論がされています。当然、それは輸入政策に反映されます。会議でも処理必要原料を減らしたいという意向を述べる場面がありました。
例えばペットボトルは、現状ではラベルがついたまま粉砕減容したものを輸入し、中国国内で洗浄し、異物を取り除くという処理を経て、原料化されています。日本から輸出するものも同じ工程を経ています。なぜなら日本で処理するよりも、中国で処理した方が輸入コストは安くなるからです。今後は禁止とまではいかなくても、処理基準を設けるなどの政策を進め、直接使用可能原料を増やすことで、できるだけ中国国内での汚染処理をなくそうというビジョンがあるようです。
以上、プラスチック会議の中から、弊社や排出企業様に関連深いトピックを拾い、紹介しました。最後にまとめとしてプラスチック会議に参加した感想を述べます。
今回の会議を通じて、私がこれまで持っていた中国政府に対する印象が少し変わりました。これまでは「政府が決定した新たな環境方針が曲がることはない」が通例だったために、今回の会議も厳しい展開を予想していました。しかし、実際にはそのようなイメージとは異なり、企業側に譲歩しようとする政府の姿勢を感じました。少なくとも、環境保護のための最低基準を下回らないという大前提の中でなら、企業の意見や利益はできるだけ考慮する方針ではあるようです。実際、一般公開する会議の前日には、協会トップと政府関係者のディスカッションが行われ意見交換もしています。いろいろと不明確な点が多いことは事実であり、楽観視はできませんが、今後の政策は政府と業界の対話で決められていく部分が大きいのではないでしょうか。
まとめ
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