2017.03.03

インド ダラヴィの奇跡~アジア最大のスラム街が確立したビジネスモデル~

『リサイクル率85%』

この数字は、ある巨大スラム街の一般廃棄物のリサイクル率を示している。

先進国にとって、リサイクルは依然として重要な活動として認識されており、技術や仕組みにおいて現在もまだ進化が継続的にみられる。一方で、日本における一般廃棄物量は4,432万トン(2014年度、環境省より)、リサイクル率は20.6%にしか満たない。また、環境大国であるドイツでは47%、スイスでは35%のリサイクル率となっており、いかに前述したスラム街でのリサイクル率が非常に高いということが窺える。

 

この巨大スラム街とは、インドの都市ムンバイにあるダラヴィである。

インドでは、リサイクル産業に対する多くの社会的、倫理的な論争に巻き込まれることが多い中、ダラヴィは環境活動の中枢として全ての廃棄物の85%以上をリサイクルしていると言われている。

こうしたリサイクル率の高さは、処分場の削減、エネルギーコストの低減など材料調達コストも安くさせる作用が働くこととなる。潜在的に高い収益率を生み出し、経済再建の重要な分野への再投資の機会をもたらす可能性さえあると考えられる。それが、他の発展途上国を差し置いて、ムンバイが世界で最も安い生活費である所以なのかもしれない。

今回のブログでは、インドの巨大スラム街・ダラヴィが確立したリサイクルシステムを歴史とともに紐解き、1つのビジネスモデルとして先進国に住む我々が学ぶべきダラヴィの教えを紹介しようと思う。

  

 

2017年1月20日、私ともう1名のスタッフはインドの巨大スラム街・ダラヴィの調査に向かった。目的は、インド最大都市であるムンバイの現地リサイクル樹脂産業の実態調査と、使用済みプラスチックリサイクル原料が多くを占めるインドでのコンシューマー系プラスチックの回収方法の確認だ。

この場所には、インドのあらゆる民族が集まり、約7,200ユニットの小事業者が形成されている。我々が想像するスラムとは全く違うインドのソウルを感じる街、それがダラヴィだ。この街は、3平方キロメートルの面積(東京ディズニーランドとディズニーシーを合わせた面積の約3倍)に100 万人以上の住民が住んでおり、正にアジア最大のスラム街といえる。ムンバイ中心地からは、車で40分程離れた場所に位置し、「バーンドラ クルラ コンプレックス」というビジネスタウンに近く、不動産価格が高いエリアに位置していることにも驚かされた。第一印象として、「汚物や下水道で満たされた場所」という強烈なイメージを持つが、ダラヴィのリサイクル産業における機能を知れば、この街に対する見方が180度変わってくる。

 

この地には、19世紀後半から漁業を行うコリ族という先住民が暮らしており、彼らがゴミやヤシの葉を用いて埋め立てたことで今のダラヴィが存在している。その後、西部のグジャラート州の職業カースト「クムハール」が登場し、陶器職人の村を作った。また、南部出身のタミル人が皮なめしの作業場を開き、北部のウッタルプラデシュ州からも多数の人々が移住し、繊維産業で生計を立てていった。次第に、インド全国から人々がダラヴィを目指して移住し、ダラヴィが栄えると同時に、そこには廃棄物も溜まるようになった。そして、この地には徐々にリサイクル産業が根付き、今ではインド最大都市であるムンバイの廃棄物リサイクルにおける重要な役割を担うようになった。

    

▲樹脂の選別をしている作業者      ▲ユニット(小規模事業者)

ダラヴィの特長は、両手を広げると手がつく程の狭い通路には、それぞれ事業ユニットが形成され、そこへ約100万人以上が住んでいることだ。この広大なスラム街には、約25万人の労働者が存在し、全事業ユニットの総年間売上高が約1,000億円の売上を計上している。あるイギリスの調査会社は、「アジアで最も魅力的な経済モデルの1つ」と述べているほど、このダラヴィには多くの魅力が存在する。驚かされるのは、その市場規模のみならず、我々が活動するリサイクル産業を中心とした無駄のない経済モデルだ。

この街では、リサイクルできないものを見つけるのは、もはや不可能と言えるほど使いきる仕組みが完成されている。回収したプラスチックを運ぶ事業者、プラスチック材料を店先で選別する事業者、洗浄業者、粉砕業者、ペレット化業者、粉砕機の修理工、粉砕機の刃の研磨、鉄の回収業者、溶接工、刃の製造業者、リサイクルに従事する従業員向けの食堂、それらすべてが10畳前後の狭い空間に存在し、3~5名程の小規模の事業者があらゆる事業で支え合い、共存し、ムンバイのリサイクルを背負っている。

             

▲水比重による樹脂選別工程  ▲粉砕機製造,メンテナンス専門業者  ▲洗浄工程専門業者

過去30年間、世界各地でリサイクリングシステムに変化が見られてきた。急速な都市化と人口増加は、廃棄物管理に対して大きな課題を山積みにした状態にある。リサイクル産業は世界的に数十億ドル規模の業界に拡大し、消費者文化が変化を続ける中で、さらに拡大することが予想され、我々プラスチックリサイクル産業にも大きな期待が寄せられている。

インド政府は、国内でのプラ​​スチック製品の消費が増加し、それに連動してプラスチック廃棄物の発生量が大幅に増加していることで、環境に悪影響を及ぼしていることに懸念を示してきた。この懸念に対し、ダラヴィのリサイクルシステムは国に大きく貢献していると言われている。廃棄物の有効な再生処理に繋がっているだけでなく、インド各州から集まる労働者にとって、多くの雇用機会を生み出す産業でもある。

ムンバイでは、1日あたり約7,000トンの廃棄物が発生している。廃棄物をリサイクルして生計を立てる人々を「ラグピッカー/RAG PICKERS」と呼び、その数は約30万人に上る。彼らの多くはインドの最も貧しく、疎外されてきたグループと言われている。廃棄物処理場や埋め立て地、中には市街地からリサイクル可能な資源(ガラス、金属、プラスチック、紙など)を回収し、ダラヴィ内のリサイクルユニットへ売却をすることでビジネスを行っている。日本でいう収集運搬プロセスが彼らラグピッカーの役割であり、ムンバイから発生する80%のプラスチック廃棄物がこの街でリサイクルされていると言われている。

▲ラグピッカー

売り手であるラグピッカーと買い手であるダラヴィリサイクル会社が構築する、国の環境に貢献するこの事業モデルは、我々が思う“三方良し”の事業モデルの実践形であり、発展途上国には少ない持続可能な社会構築に向けたモデルであるとも言える。ダラヴィの平均賃金は月平均3,000〜15,000ルピー(約5,400円~約27,000円)であり、作業の専門性に応じて差がある。インド国内の一般製造業における平均賃金が約20,000円と比較すると、やや低水準ではあるものの、廃棄物から収入を得るというビジネスモデルはダラヴィリサイクル・ミラクルと言われており、スラム街の労働者に誇りを持たせている。

   

▲樹脂、色ごとに選別された素材     ▲粉砕された素材

 

常に変容を遂げる消費文化と人口の増加問題を受け、廃棄物のリサイクル活動は、ますます重要な活動となるだろう。地球上に生きる我々にとってリサイクル活動は、もはや習慣化された生活の一部と捉えられている。

今回のインド・ダラヴィへの訪問は、プラスチックリサイクル事業に関わる我々の常識を覆すほどの大きな衝撃を受けた。スラム街に住む人たちの幸せな光景は、リサイクル産業が世の中に必要な事業であることを確信させ、また我々先進国のリサイクル会社を勇気づけてくれるものであった。選別のノウハウ、排水システム、使用設備は、未だ後進レベルと言わざるを得ないが、小規模事業者であってもそれぞれの強みを生かす仕組みは、もはや近代的とさえいえる。

  

▲路地を歩いていると手を振る子どもたち

 

今後も7%台の高成長が予想されているインドは、世界で最も急速な成長を期待されている大国と言える。「インドが今後の原油市場の成長エンジン」と国際エネルギー機関(IEA)が言うように、輸出依存度が低く、内需である個人消費がこうした高成長を支えている点からも、リサイクル処理能力・技術の向上が急務といえる。こうした経済環境の中、アジア最大のスラムが立ち向かう、今後のリサイクルの形から目が離せない。

地球資源を取扱う我々プラスチック産業の使命は明白で、地球規模でのリサイクルに取り組み、継続していくことである。我々の欲求は無限大でありながら、資源は有限であることを考えなくてはいけない。

執筆者:黒木 伸亮

 

まとめ

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