2020.10.09
まとめ
世界の工場と呼ばれるラテンアメリカの大国、メキシコ合衆国。人口は日本と同様の規模ですが、面積は日本の5倍です。そんなメキシコでは、近年、急速な経済発展や人口増加に伴い、廃棄物排出量の急増や大気汚染の深刻化が喫緊の課題となっています。
メキシコは現在、発生する廃棄物のほとんどを埋め立てに頼っており、一部リサイクル原料として利用できるものも、他国への輸出に依存しその処理を行っています。
そのために、使用後のプラスチックについて燃料化(サーマルリサイクル)、再利用(マテリアルリサイクル)に関する技術は未だ発展途上と言わざるを得ません。経済発展とともに使用率が上がっているプラスチックも、本来ならリサイクルをして燃料や製品として得られる重要な資源です。しかしながら現状は、その燃料や製品を新たに他国から輸入することで補っている状態なのです。
これらの課題に対し、パンテックは「プラスチックの資源循環経済の構築を通じて地球を再生する」ビジョンそのままに、日本の提案技術を活用して地球の裏側のリサイクルへ貢献しようと一念発起し、2019年、株式会社黒田工業様との2社共同で「農業用フィルムとプラスチックのリサイクル技術に関する案件化調査」を行いました。
©Peter Fitzgerald /2008/ CC BY-SA
メキシコは国土の約半分が農業用地であり、農産物の輸出大国です。
そんなメキシコでは、発生する廃プラスチックの中でも特に農業用プラスチック製品の廃棄量増加が問題視されています。農業用プラスチック製品の年間消費量は30万トンあり、特に温室ビニルハウスに使用される農業用フィルムはそのうち約85%を占めています。農薬が付着したままの使用済農業用フィルムが大量投棄されたり、野焼きされたりすることで、ダイオキシン等の有害物質を発生させ、大気汚染を深刻化させる重大な要因となっているのです。
(農業ポリエチレン)
このような状況を踏まえ、メキシコ合衆国政府でも、「国家開発計画2013~2018」の中で、「資源の有効活用を含む廃棄物総合管理を具現化する」ということを掲げていました。廃棄物の発生抑制、再利用、リサイクルについての取り組みと共に選別施設や最終処分場の拡大等、対策は取られているものの、これらはいまだ限定的なため、根本的な解決に至っていないのが現状です。
「農業用フィルムとプラスチックのリサイクル技術に関する案件化調査」では、2019年1月、4月、7月~8月の全3回のメキシコ現地調査を行い、その後メキシコ中北部にあるケレタロ州政府・グアナファト州政府の関係者を日本へお招きし、農業用フィルムをはじめとしたプラスチックの処理工程、民間企業における廃棄物燃料の活用やマテリアルリサイクルの仕組みの視察、日本の行政の施策に関する説明を行い、農業用フィルム及びプラスチックの適正処理・リサイクル化に対する理解を深めていただきました。
また、最終の現地調査ではグアナファト州で50人の行政関係者(グアナファト州政府、ケレタロ州政府、天然環境資源省など)及び民間の廃棄物処理業者をお招きし、セミナーを実施いたしました。
セミナーでは、農業用フィルムをはじめとしたプラスチックの処理技術と法制度の紹介に加え、あらかじめグアナファト州より要請を受けていた、日本における行政の廃棄物への取り組みや、廃プラスチックのリサイクルに関する政策提言についても盛り込まれております。
メキシコで大きな問題となっている農業用フィルムなどの廃プラスチックに対し環境に配慮した適正な処理を行うためには、回収システムや課税制度といった法制度を整える必要がある。そして、リサイクル会社にとっても収益が得られる仕組みの構築が同時に必要となる。このような事項を主な内容として、当日は以下のような政策提言を行いました。
1.Para materializar el reciclaje de los residuos plasticos industriales se requiere de legislacion, un sistema de recoleccion y un sistema de impuestos.
1.「農業用廃プラスチックのリサイクルの実現に向けては、法整備と回収システム、課税制度の構築が必要である。」
2.Se requiere construir un centro intermedio de recoleccion con criterios de separacion y personal responsabilizado en la separacion (En Japon se realizo con una reforma legal en el 2000)
2.「選別基準の整った廃プラスチックを集めるハブを構築し、専門の人員を配置した分別を行うなど、排出者責任(日本では廃棄物処理法2000年改正)に則った管理機能を作る。」
3.La falta de rendimientos para las empresas de reciclaje implica el abandono. Un alto rendimiento para las empresas de reciclaje implica un incremento de la tasa de reciclaje
3.「リサイクル会社にとって収益性がない=不法放棄、リサイクル会社にとって収益性が高い=リサイクル率向上」
4.Debe realizarse una concientiacion entre los productores agricolas sobre la necesidad del reciclaje para producir productos agricolas de un alto valor agregado, y al mismo tiempo debe crearse un mecanismopara que el Gobierno impulse las verduras de marca, a fin de crear una relacion de mutuo beneficio para los productores agricolas y las empresas de reciclaje.
4.「農家がVALUEの高い農産物を作るためにはリサイクルが必要であるという啓蒙活動を行うとともに、ブランド野菜を政府として後押しする仕組みを作ることを通じて、農家とリサイクラーのWIN-WINな関係を構築する。」
5.Es fundamental crear un mecanismo que traspase las fronteras entre los Estados. De lo contrario, habria brechas en las legislaciones entre cada Estado y la basura se concentraria en los Estados con regulaciones mas relajadas.
5.「隣接する州の垣根を超えた回収が可能な仕組みづくりが重要である。でなければ、州の法制度に落差が生じ、法制度が緩い州に産廃物が集中する。」
グアナファト州は、排出事業者に対して新たな課税を検討しており、州政府関係者からは、新制度の仕組みづくりのために、産業廃棄物を排出する個人事業者や法人に対して、廃棄量に応じた課税を排出時・最終処分時に行う日本の産廃税のような仕組みを参考にしたいとのコメントを得ました。税金の使い道としては、廃棄物の発生抑制、再資源化支援などの3R対策が主となります。
この活動を通し、ケレタロ州政府・グアナファト州政府の参加者は帰国後にそれぞれの州において農業廃棄物に関する規制を作るよう内部で働きかける意向を示していただきました。
これからメキシコ合衆国においてのリサイクル率向上に期待が持てる成果となったと自負しております。
《出典:独立行政法人国際協力機構(JICA).メキシコ国 農業用フィルムとプラスチックのリサイクル技術に関する案件化調査 業務完了報告書. 2019, https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/1000041706.pdf》
「農業用フィルムとプラスチックのリサイクル技術に関する案件化調査」を終えて1年、現地で農業用ポリエチレンのリサイクルを行っている企業からは、すべての課題解決にはまだまだ時間がかかるとのコメントを頂いております。
パンテックは今後もメキシコのプラスチックリサイクル動向を注視し、支援だけにとどまらない、三方良しの輪をさらに広げていく所存です。
また反面、メキシコのプラスチックリサイクル技術が進んでいる点として、実はポストコンシューマー(PCR)由来の再生原料の製造に先進的であるということが挙げられます。今回の案件化調査によりさらに広がったパンテックのネットワークにて、プレコンシューマー由来の再生原料だけでなく、日本では利用の少ない使用済みボトルを中心に用いたHDPE原料などのポストコンシューマー由来の再生原料も試験的に調達を開始しております。
日本国内におけるHDPE再生原料は、ドラムやパイプ材由来の原料が多くを占めますが、工業由来の素材ということもあって、供給量が安定しないことが課題です。
北米では、飲料ボトル向けなど日用品類のボトルにHDPE樹脂が多く利用されていることもあり、その分回収量も多いため、比較的容易にボリュームの大きい原料を確保できる可能性が高いのです。
しかし、ポストコンシューマー由来の原料で懸念されるのが臭気です。
ボトルに充填されていた飲料や洗剤のにおいがプラスチックにも移るため、脱臭装置付きのプラスチック洗浄/脱水機での加工を行っているものの、においが多少残ってしまいます。
臭気を気にしない用途であれば、工業用の資材としてパイプやジャバラホース、WPC【Wood Plastic Composite …木材とプラスチックから生産される合成木材のこと】向けなどには使用が可能となっており、上記用途での原料利用に関して、製造テストは成功しております。
(※原料一例)
このように、日本国内で不足するリサイクルプラスチック原料を他国から調達することで物量を補うことが可能になると、地球全体におけるリサイクルプラスチック原料の利用割合が増えることになります。生産地近辺では販売経路がなく、リサイクラーにとって採算が合わないことから、本来リサイクルが出来ていたプラスチックが廃棄されるという地球環境への悪影響が軽減されることにも繋がるのです。どうしても自国のごみ問題に思考が向きがちなプラスチックリサイクルですが、世界の技術に目を向けることで、日本のプラスチックリサイクル用途の幅がますます広がり、世界にとっての真のサーキュラーエコノミーに繋がっていくことでしょう。
プラスチックリサイクルを地球規模で行わなければならないこの時代、サスティナブルな製品デザインからサーキュラーエコノミーへ参画をされようとされているメーカー様にとっても、今回パンテックが行ったメキシコでの案件化調査、またポストコンシューマー由来の原料供給には大きな意義があると確信しております。
パンテックのサーキュラーエコノミー構築支援活動にご興味ございます方は、是非お問い合わせフォームよりご連絡ください。
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弊社もサーキュラーエコノミーの取り組み事例といたしまして、
弊社協力企業である「株式会社開伸」様とコラボした、フェイスシールドや
パーテーションといったアイテムのご提案も致しております。
ご注文も随時受け付けております。ご用命の方は下記URLをご参照ください。
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